12.どうしてこうなったのか

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送別会の主役は部署異動になる斉藤さんと伊藤さん、そして三月末で契約が切れるマリさん、翠さん、華さん達だ。 別にこの三人が居なくなって悲しむ人はいないが、形式上主役として上座に座らされている。 少し酔った部長によるテンションの高い進行で、会は楽しく進んでいる。 営業促進課に移動になる斉藤さんが、お別れの挨拶をしている時、悲しくて泣きそうになった。 斉藤さんはこの課で唯一最初から優しかったからだ。そしてその優しさから、私の妄想での突っ込まれ役でもある。 斉藤さんを見て妄想できないなんて、こんな悲しいことはない。 続いて伊藤さんの挨拶だ。この人にはそんなに思い入れはない。ペアを作りたい時の人数合わせモブキャラだった。 どうでもいい。 そしてあの三人にマイクは渡された。 涙を流しての大袈裟なお別れの挨拶に辟易していた時、翠がとんでもないことを言い出した。 「私見ちゃったんですよ、社員寮の山科さんの部屋に内田さんが一人で入って行く所を。二時間たったら、内田さん汗だくで疲れて出て来たんですよ!山科さん、麗子さんと結婚するって話ですけど、内田さんと唯ならぬ関係だったんじゃないですか?」 会場が静まり返る。 代表取締役の娘と結婚が決まっている男に一大スキャンダルだからだ。 山科さんも黙ったまま何も言わない。 翠は大好きな山科さんの結婚をなんとしても阻止しようとしていた。出汁に使われた。 ここで反論したのは、妙ちゃんだった。 「何バカなこと言ってんのよ!優美はね、山科の部屋の掃除してたのよ!そこには私もいたから!勘違いするな!」 妙ちゃんは真実と嘘を巧妙に織り交ぜた言い訳をした。妙ちゃん曰く、こうすると最も他人が信じやすいらしい。 「でも、だって」 それでも何か言おうとした翠に妙子ちゃんはこう言った。 「優美はね、今お見合いでいいとこの坊ちゃんと結婚する話があんの!山科なんか相手にするわけないでしょうが!」 「結婚しないよ!」 心の中で反論したが、口に出すのはやめた。山科さんに迷惑をかけたくない。結婚するテイでいれば、変な噂も立たないだろう。 そして、山科さんは不思議と何も言わない。 周りの人がざわめいた。この冴えない腐女子がまさか結婚するなんて思ってもみなかったからだろう。 ここで一番に遜ったのは部長だった。 「誰と結婚されるんですか?専務の従兄弟とか?代表の従兄弟のお子さんもまだ独身だったな」 妙ちゃんは部長の独り言を聞いて爆笑している。 そして部長はまたグラスをかかげた。 「実は山科くんも、結婚が決まりそうなんだよね?二人に乾杯」 会場が一気に盛り上がる。男の人たちにとったら山科さんは希望の星だ。 「逆玉だ」「よっ、次期社長」 ヤジを聴きながら、この場を取り繕う為に、飲めない酒を口に流し込んだ。 そしてそんな私の様子に気がついた妙ちゃんが、「はい、まだマリさん達の挨拶ですよ」と場をもとに戻してくれた。 持つべきものは友達だ。 この場さえ何とかやり過ごせば、元の平穏な生活に戻れる。
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