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家に辿り着くといつものようにお母さんが玄関で出迎えてくれた。
「優美、おかえり。送迎会どうだった?」
まさか、「朝まで男と○○○していたよ」なんて言える訳がない。
「例年通りだよ」
笑って誤魔化す。
リビングには父さんが新聞を読んでいる。
「ただいま」「お帰り」
いつもの会話を交わすと、父さんがニコニコしながらこう言った。
「麗子ちゃんに結婚する話があるらしい。相手が優美と同じ部の」
「山科さん?」
父さんは、「そうそう」と自分の娘の結婚が決まったように嬉しそうだった。
まさかその山科さんの浮気相手が自分だなんて言える訳がない。
それにしても、私は何てことをしてしまったのだろうか。
「山科君はどんな男なんだ?川島が優美に聞いてくれって言うんだよ。ほら、女癖が悪いとか、そういうことは聞いたことないか?」
青天の霹靂、今ここで「女癖が悪い」「虐められていた」「実は昨日体の関係を持った」
そう言えば結婚を辞めさせ、山科さんを手に入れられる。
手足が変な汗をかく。
私は何をしてもどんな手段を使ってでも彼が欲しかった。彼のことが好きだった。
しかし、脳裏になぜか山科さんのお母さんの優しい笑顔が思い浮かぶ。
そして次に山科さんの部屋の「ビッグになる」という張り紙が浮かぶ。
父さんに告げた言葉は「優しくていい人だよ」だった。
父さんは満足そうに頷く。
「麗子ちゃんが選んだ人だもんな」
私も相槌を打った。
「麗子さんが選んだ人だもんね」
手足が震えている。
階段を登る足取りが重い。息が苦しくて仕方がない。
そう、私では彼の夢は叶えられないから
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