12.どうしてこうなったのか

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梅雨の真っ最中、今日は珍しく晴れていた。山科さんが部長の横に立ち、堅苦しい挨拶をした。 けれども山科さんと仲良しの男性社員による「よっ、玉の輿」の一言で空気が和み、笑いに包まれた。 今日でここに来るのは最後らしい。すぐに麗子さんと飛行機に乗り、フランスの子会社へ海外留学するのだそうだ。 「皆さん、大変お世話になりました。このご恩は決して忘れません」 山科さんが深々と頭を下げ、拍手に包まれた。 お世話になったのは私の方だ。 人との闘い方や付き合い方、身だしなみまで何から何まで教えて貰った。 彼のおかげで人間らしい生活が送れているのだ。 山科さんは大きな花束を抱えて、みんなに見送られながらエレベーターに乗る。 エレベーターの扉がゆっくり閉まっていく。 山科さんを見るのはこれが最後になるのだろう。 会社からの帰り道、いつか山科さんと過ごしたゲームセンターに足が向いた。 心が痛い。もしかすると一生この痛みは続くのかもしれない。 地下鉄に乗りながら、山科さんのことを考えた。 心に大きな傷ができている、けれど何の後悔も無い。 家に着くと、妙ちゃんと夢がもう部屋にいた。 その二人を見ると涙が溢れた、二人は私の頭を撫でて優しく抱きしめてくれた。 そう、これでいい。すべてがこれで良かったのだ。 私は妄想こそ生きるエネルギー、腐女子妄想家、内田優美だから。
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