13.お見合いの勧め

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いつも通り、家族で朝ごはんを食べていた。 するとふとお母さんが、私の心の傷をえぐることを言い出す。 「麗子ちゃん、向こうで楽しく生活してるみたい。やっぱり結婚っていいわね」 熱いお茶を一気に喉に流し込んだ。そう、二人はうまく結婚生活を送っている。私の選んだ道は間違いでは無かった。それがわかっただけでも良かったと思おう。 「優美、だから今日ちゃんと侑士さんにお返事してね。好きじゃなくても、嫌いじゃなければいいの。結婚しちゃえば、そのうち好きになるわよ」 結婚って、そういうものなのだろうか。結婚を成功している母親が言うのだから、そうなのだろうな。 でも、私は結婚なんかするよりも、BL漫画を描いていたいし、妙ちゃんや夢と妄想を語り合っていたい、 それが私の出した答えだった。 これこら先も結婚なんてわずらわしいことはしたくない。 侑士さんに正直にそう話そう。彼なら、もっと他にお似合いの女の子いそうだし。 そんなこんなを考えながら、あっという間に侑士さんとの待ち合わせ場所の池袋駅東口に着いてしまう。 侑士さんは、いつもの通り律儀に待っていてくれた。 どこかへ行くのも悪い、だから正直に話す。 「侑士さん。お話があります。結婚のことなんですが、私はお受けできません」 「どうしてですか?」 「私は他に好きな人がいるんです。付き合ってるとかそう言うのではないんですが」 「山科さんですか?」 あれだけ色々付き合わせると、もうバレていたのだろう。 「そうです」 「でも、山科さん、ご結婚されたんですよね?」 「そうです、もう会うこともないと思います」 そう言った瞬間に、山科さんの体温が蘇った。 私はこうして思い出を噛み締めて生きていくのがお似合いだ。 「じゃあ、いいじゃないですか。僕と結婚しましょう。きっとうまく行くと思います」 侑士さんの顔を見たが、彼は相変わらず穏やかなままだった。 「優美さん、僕は自分の両親を見ていて思うのですが、結婚は情熱だけでは続きません。お互いに尊敬できるかどうかです。僕たちだったら、お互いに尊重し合えると思うのですが、どうですか?」 侑士さんに何も言えなくなった。確かに侑士さんの言うことにも一理ある。 池袋の古本屋巡りをしながら、これからを考えていた。 そして、ずるい私は山科さんと関係を持ったことを決して言わなかった。
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