壁になりたかった乙女

13.お見合いの勧め

侑士さんにしっかり返事もできない。かといってはっきりと断る勇気もない。

そしてずるずると先延ばし、一ヶ月が経ったある日のことだった。

部長に会議室に呼ばれた。

一体なんだと思っていると部長はひとことこういった。

「内田さん、今一般職としてお勤めされてるんだけど、総合職に変わる気はないか？」

私は今事務の仕事をしている。それを、妙ちゃんや山科さんがやっているような開発の仕事に変わらないかと言われている。

「いや、私なんてとても」

そう、やってみたい気持ちはある、だけど、自分に自信が持てないのだ。

部長はいつもの営業スマイルを見せた。

「うちの会社、何人か派遣の人も一般職の人もいるけど、山科君に一回聞いた時にさ、真っ先に内田さんの名前が出てきたんだよ。彼女は味覚も確かだし、冷静に物事を考えられるってさ」

山科さんは私のことをそんな風に評価していてくれてたのだ。彼の名前を聞くと、やっぱり胸が痛かった。けれど、彼に応援されている気もする。

「私、役不足な気もしますが、やらせて下さい」

震える声でそう伝えると、部長はニコニコになった。

「ありがとう、なんて言ったって君は川島代表の後ろ盾がある。羨ましいかぎりだよ」

部長が私を推した理由はこれだった。

でもいい、チャレンジしてみよう。

山科さんと仲良くなる前までの私だったら、こんな話回ってこなかったし、引き受けもしなかった。

だから、彼と出会えて良かった。