1.負女子妄想家、内田優美の日常〜馬鹿にされるのなんて慣れてますから!

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塩まみれの体を洗うべくお風呂に入った。塩のおかげがいつもよりツルツルな体に違和感を感じている。 「私はそういうの要らないんで」 自分の体に話しかけてみたが、自分の体は「まぁまぁたまにはいいんじゃないか」とセクハラ親父みたいな返答をするような気がする。 私が必要としているのは健康のみ、可愛くなりたいとか綺麗になりたいとか、そんな感情はあいにく持ち合わせていない。 ただ推しの恋愛を見守りたい、それ以上でもそれ以下でもないのだ。その為に頭と体の健康があればそれでいい。 むず痒い体と格闘しながらも、リビングのソファでくつろいでいた。 今やっている番組は「今日の料理」だった。これでスイッチを押されることは絶対にない。抑揚が薄い料理の先生の喋り方に癒される。 すると父と母がニコニコと近づいてきた。 「優美、24歳だろ?前も言ったがそろそろ身を固めたらどうかな?」 お父さんは机の上にザお見合い写真というベージュの台紙を三つ並べた。 大きなため息を吐く、前もお見合いする気なんてないと言ったはずだ。けれども両親からすると娘の幸せ=結婚なのだ。 とにかく三つとも開けてみよう。 そしてすぐに写真を閉じた。 三人とも冴えない。同じようなスーツを着て、同じような眼鏡をかけ、細身で握り拳を膝の上に置いていた。 見事なモブキャラだ。 今度の新刊に出すキャラの模倣として使えるかもと期待したが、完全に裏切れた。 これだったら、会社の同じ部で働いている正田さんとか斉藤さんとか部長の方がよっぽどキャラとして魅力的だ。 オフィスラブの定番は一通りできる。 性格が悪すぎてめちゃくちゃ嫌いな山科さんだって、ヒールなのに最終的には受けとしてめちゃくちゃにやられる役として利用価値がある。 なのに、この三人はダメ、何の魅力も感じない。受け攻めどっちも想像できない。 私の方が彼ら以上に冴えない女だとよく分かってはいるが、心の中で品定めし、思う分には勝手だ。心の中はいつでもフリーダム、ラブアンドピース。 乗り気ではないのがお父さんに伝わったようで、彼らのフォローを始めた。 「三人ともしっかりとした家の次男坊なんだよ、性格は勤勉で温厚、仕事も銀行員と区役所勤めと高校教員だそうだ」 閃いた!稲妻に撃たれてしまった……全身が痺れる。 普段地味で誰の目にも止まらないモブキャラ三人組なのに、実は凄い攻めだった。 ヒールの山科さんが性欲の発散の為にめちゃくちゃにしようと企む、なのに逆襲され、主導権を握られ、全ての部分の調教されちゃう系ならいける! もう一回……もう一度でいいから……あのお見合い写真……見せて…欲しい。 「優美!大丈夫か?また狐に取り憑かれたのか?」 気がつくと震える手で机の上に手を伸ばしていた、お父さんの声で現実に戻ることができた。危ないところだった。 またスイッチが入りそうだ、最近どうしたんだろう。 ストレスが溜まっている。間違いない。 とにかく必死に笑って誤魔化し、塩を取りに行こうとしたお母さんを止めた。また持って来られても面倒なので、はっきりさせとかなければならない。 「あのさ、結婚はしたくない。興味ないもん」 古い時代の価値観を呪縛霊のように背負っている両親は私の気持ちを理解できるわけない。そんなことは自分でもよくわかっている。 「お父さんの職場にもそういう若い女性かいるから、その気持ちはよくわかる。そんなに仕事が好きなのか?」 お父さんの一言に思わず吹き出した。 あなたの娘はそんな大層な仕事はしてません、できるわけないでしょ? その国家公務員の優秀な女性と一緒にするのはやめて、あまりにも失礼すぎる。 父が万一にも「うちの娘も仕事が生きがいで」と話してたらその人に土下座して謝罪しなければならない。 無能な私はただ壁となり推しの恋愛を見守りたいだけ。 恋愛、結婚はするものではない、眺めるものなのだ。
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