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1.負女子妄想家、内田優美の日常〜馬鹿にされるのなんて慣れてますから!
テレビに出ているグラビアイドルが二の腕を押しつけて胸元を強調し、こう言った。
「私、実は腐女子なんですぅ」
「腐女子って?」
画面の中の人達が少しざわついたけれど、司会の中堅芸人がテンポ良く説明を求めた。テレビの前のおじいちゃんおばあちゃんにわかるようとの配慮だろう。
そしてこの瞬間、グラビアイドルの目が泳いだのを画面越しでも見逃さない。彼女はやけに明るい声を出した。
「腐女子っていうのは、男同士での恋愛を楽しむんです」
画面の中が少しざわついたけれど、すぐに収まった。
そう、今は多様性の時代だからだ。
どんな指向だろが、それを馬鹿にするとBPO案件になる、全ての日本人が時代に品行方正を強要されているのだ。
「男同士の恋愛を想像して楽しいの?」
そう問われると、再びグラビアアイドルの目が泳いだ。
「楽しいですよ、普通の恋愛漫画と同じです。性別なんて関係ないです。とにかく楽しいんです」
画面の中がまたざわついた。
そしてテレビを見ていた私は確信した。
この女、腐女子を自分が芸能界を這い上がって行く糧にしようとしている。
許すまじ。
私より年上かもしれないが、あの小娘は腐女子を一つも理解していない。
それどころか内心では嫌悪感を抱いているに違いない。
本物の腐女子にとっては、女が入らないこの世界は尊い。
神々が創造した結果、まばゆい光を放ち、とても純粋で一点の汚れもない。
その中を推しのカップルが欲望をぶつけ合う、
そして愛が生まれる。
何と神聖な世界。
私達腐女子はその美しい世界を壁となり、天井となり、推しの恋愛を見守ることこそが神から授けられた福音。
目の前に天から強い光が降り注ぐ、私の周りを天使達が踊っている。
「優美(ゆうみ)優美、どうしたの?」
ふと気がつくと、ここは自宅のリビングにあるソファの上で、心の叫びだったのが全身全霊を使い憤りを表現していたようだ。
「気でも触れたのか……母さん、塩持ってきてくれ、優美が狐に取り憑かれた」
今まで家族にも性癖を隠して早十二年、プロ腐女子妄想家の私としたことが、よりにもよってリビングで表出してしまった。
とにかくこの場を取り繕わなければならない。子煩悩な両親を心配させたくない。
「お父さん、何でもない。何か叫びたかったんだよ。お父さんも仕事でそういう時あるでしょ?」
「……まぁ、仕事してたらそういう日もあるな」
国家公務員で激務の父は仕事に例えると何でも理解を示してくれる。
「でしょう?」
いい娘モードになり、お父さんと目を合わせて微笑み合った瞬間、頭の上から何かが降ってきた。少し口に入った何かはしょっぱい。
これは……紛れもない塩だった。
「優美、しっかりして!狐め!可愛い優美から出て行きなさい!取り憑くなら私にしなさい!エイッ!エイッ!」
お母さんは短大を卒業後、許嫁であった父さんとすぐに結婚した。だからというか大分世間に疎い。
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