レンタル・デビル

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 朝六時、目覚まし時計が鳴り響く。    朝早いのはわかっていながら昨晩も遅くまで呑んでしまった。何時に寝たのかもわからないくらいの泥酔だ。辛うじて二日酔いは回避しているが、胃にまだ昨夜の酒が残っていて奥から立ち昇ってくる安いアルコールの匂いが不快感を掻き立てる。  しんどい。  心身ともにしんどい。今日だけじゃない。毎朝が憂鬱で仕方がない。  それでも僕は大量の水と飲むゼリーを流し込んで歯を磨き身支度を整えて家をあとにする。  気持ちいいほど絵に描いたように転職に失敗した僕が辛うじてありつけた仕事は、営業代理店の飛び込み営業だった。他社から営業を委託された商品を売るだけの、そして売ってナンボの過酷な仕事。  適性のある人間には楽しくて仕方がないらしいこの仕事だが、もともと経理希望だった僕は数字には強いが対面でひとと話すのはあまり得意ではなく、飛び込みの営業実績は三ヶ月終わってゼロ件。  一ヶ月めは優しかった主任も二ヶ月めに入ったとたん「お前ももうベテランだからな」と言うや否や鬼のように厳しくなり、帰社してゼロ件を報告をするたびに鼓膜に響くほど激しい叱責を受けるようになった。  僕だって日がな一日公園でぼーっとしていたりパチンコ打ってたりして契約を取れないわけじゃないんだ。足が棒になるまで決められたエリアの住宅を一軒一軒チャイムを鳴らして回り、怒鳴られようが嫌な顔をされようがなんとか必死に食い付いて商品説明を聞いて貰おうとする。  そう、僕だって聞いて貰おうとはしている。  だが往々にして上手くはいかず、日に三十軒以上営業をかけて話を聞いて貰えるのは一軒か二軒。それ自体がゼロの日だってある。  そして僕にはたったこれだけのことが毎日深酒をしなくてはいけないほどの苦痛であり、だからこそだろうか、三ヶ月やって未だ何ひとつ成果を挙げられていないのである。  それでも生きていくためには働かざるを得ない。働かざるもの食うべからずなどと一々言われるまでもなく、働かなければ食うことは出来ないのだ。
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