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天馬がドアを開けると、そこには一人の女性が立っていた。 (随分と若いなぁ 俺と同い年くらいのかなぁ) 天馬がそんな事を考えていると、女性がおもむろに口を開いた 「す、すいません・・こんな深夜に」 女性は申し訳なさそうな表情を浮かべながら深々と頭を下げる。 天馬が気にしないでくれと伝えると、女性は続けて口を開く。 「あの・・財布・・落とされませんでした?」 女性は手に持っている黒財布を手渡す。 それは明らかに天馬の財布に間違いなかった。 「あれ?財布・・落としてました? 全く気付いてませんでした」 「そこの自販機の近くに落ちてまして・・」 「そうだったんですか!わざわざ ありがとうございます!」 とお辞儀をする天馬だったが、とある疑問が頭をよぎり、思い切って女性尋ねてみる 「でも・・よく住所分かりましたね?」 これだ!落とした財布を拾ったとしても、天馬の住所までは分かるはずがない。 天馬自身、おおかた予想はついていたが、とりあえずの気持ちで尋ねみる。 すると女性は申し訳なさそうに 「すいません、ダメだとは思ったんですけど その・・免許証で・・本当にすいません・・・」 やっぱりか!そう思った天馬だったが、わざわざ自宅まで財布を届けに来てくれた親切な女性に 「プライバシーの侵害だ!」などと文句を言うわけにもいかず 「いえ、謝らないでくださいよ 貴方のおかげてこうして財布が 戻って来たんですから! 謝るのはむしろこっちですよ!」 必死にフォローをする天馬であったが、女性の表情は変わらず申し訳なさそうにしている。 どうしようかと考える天馬だったが、ふとある事を思い出した。 それは「財布を届け人間は、財布の中身の1割をもらう権利がある」という事。 それを思い出し、天馬は御礼を渡そうと財布を物色するが あいにくATMに行っておらず、財布の中身が300円しかなかった。 「すいません・・・」 突然謝る天馬に、首を傾げる女性。 「御礼を渡したかったんですけど ATMに行ってなくて持ち合わせが・・」 申し訳なさそうに頭を下げる天馬に女性は、御礼を狙って届けたわけではないからという言葉を残し 「では私は失礼します。夜分遅くにすいませんでした」 女性は夜の闇へと消えていった。 ✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎ 天馬は安堵の息を漏らし、ホッと胸を撫で下ろしていた。 「はぁ〜変な人じゃなくてよかった」 しかし天馬は疑問に思っていた。 今日は財布を使った記憶が無かったからだ。 しかし女性から手渡された財布(コレ)は、紛れもない自分のものだ。 たぶん、何の気なしに使ったのだろうとあまり気にしていなかったが。 天馬は女性に対しても気になることがあった。 あの女性は、財布の免許証を見て住所まで届けに来てくれたと言っていたが 免許証を見たという事は天馬が男性だとわかったうえで財布を届けたに来たという事になる。 天馬は間違ってもやらないが、ドアを開けた瞬間に家に引き摺り込まれて強姦(おか)される!なんて可能性もおおいにある。実際にそういう事件もある。 女性の今後が不安だと考える天馬だったが、今日会ったっきり、もう会うこともないだろう。 他人である自分はとやかく言う筋合いじゃない。 とにかく今は、無事に財布が手元に戻って来た事を素直に喜ぼうと考え、天馬は眠りにつく。 明日も朝から大学だ。
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