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三
天馬は大学に着くとすぐさま崇矢に、美琴に手料理を振舞ってもらえる事を嬉しそうに話した。
「へぇ、手料理ねぇ!よかったじゃん!」
崇矢は若干揶揄った様子で天馬の肩をポンポンと叩く。
そんな崇矢に天馬はじとっとした視線を送る。
「なんだよ!その目は!」
「今回ばかりは崇矢の取り越し苦労だったね!
美琴さんがストーカーだなんてさ!
あんまり人の事を疑うの良くないよ?
美琴さんはあんなにいい人なのに!」
そんなノロケている天馬に崇矢は「そりゃ結果論だろ?それに俺は、その女がストーカーだ!なんて断言したつもりはねぇぞ?
そのくらいの危機感を持っとけって話だろ?」と呆れた様子で話す。
「まぁ、そういう事にしといてあげるよ!
でも楽しみだなぁー手料理!」
「のろけか!クソ!リア充死ね!」
しかし、言葉ではそう言った天馬であったが、美琴に対して不安感もあった。
自宅で女性と二人きりという状況に対しての不安ももちろんあったが、それだけでなかった。
それは約束をして以来、美琴からの連絡がパタリと止んだからだ。
自分の返信に何か癪に触る受け答えがあったのだろうか?嫌われたのだろうが?など色々考えたが答えは見つからなかった。
そもそも自分のような冴えない男が、美琴のような可愛い女の子と付き合えるかもなど、土台無理な話だったんだと半ば諦めた様子で帰路に着く天馬。
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鍵を開け、部屋に入り明かりをつけた瞬間、天馬の目の前には衝撃の光景が広がっていた。
「なんだよ・・・これ・・・」
そこには、オムライスが準備されていた。
「オム・・ライス?なんでオムライスが?」
天馬の頭の中では、身の毛もよ立つような仮説が浮かび上がっていた。
それは、目の前のオムライスは美琴が準備したのでないか?という仮説だ。
しかし、仮にそうだったとしても、美琴はどうやって入ったのだろうか。
ドアの鍵は閉まっていたし、窓の鍵を調べてみてもキチンと内側から施錠されている。
もしかしてピッキングか?とも考えたが、鍵は閉まっていた。
いくら思考を巡らせようとも、答えは見つからなかった。
そんな恐怖が天馬の全身全霊を支配していると
「ピンポーン」
インターフォンが鳴り響き、天馬を容赦なく追い詰める。
「ひぃ!だ、誰?」
もしかして美琴か?と内心穏やかではない天馬。
恐る恐るドアに近づき「あの・・・どちら様ですか?」と問いかける。
美琴さんじゃありませんように!と願う天馬であったが、そんな願いは無情にも跡形もなく崩れ去る。
「あっ!天馬くん?私!私!美琴!」
「美琴さん?」天馬の表情は、先程までのウキウキ具合とは正反対に、恐怖に引き攣った真っ青な表情になっていた。
「オムライス食べてくれたぁ?
美味しかったかな?
天馬くんの好みにあったかな?」
「美琴さん!どうやって部屋に入ったんですか?」
「いいじゃん♫そんな事どうでも!」
「どうでもよくないだろ!」
天馬の言い分は美琴にまったく通じていない様子だ。
まるで自分がやっている事の異常さを理解していないようだ。
「どうしたの?何怒ってるの?
私、なにか悪いことしたかな?」
「自覚ないんですか?これは明らかに
住居侵入じゃないですか!」
「何言ってるの?私は天馬くんの彼女なんだから
彼女が彼氏の家に行くなんて普通の事でしょ?」
美琴の発言に天馬は戦慄した。
やはり美琴は自分を彼女だと勘違いしているのだと。
「彼女?いつそんな話になったんですか?」
「いつって、私はずっと前から
天馬くんの彼女じゃない!
何変な事言ってるの?天馬くんおかしいよ」
「おかしいのは美琴さんじゃないですか!
だって俺たちは」
天馬が言い切る前に、美琴はさらに言葉をすすめる。美琴には天馬の意志など関係ない。
「いいから早くドアを開けてよ」とドアをたたきながら天馬に語りかける。
しかし天馬は、あまりの恐怖に腰が抜け立ち上がれない。多少の眩暈と吐き気もしてきたようで、苦しんだ顔で口元を手で押さえてる。
天馬必死に掠れた声で「帰ってください」と呟く事しかできなかった。
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