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6th contact 大気圏突入
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※【君の音色はブルージー】本編を読み終えた方推奨です※
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「これ、全部あんたの本か」
凱は分厚い胸の前で長い腕を組み、積み上げられたダンボール箱をみつめている。
「うん」
殆どが実家に置いていた研究関連の書物だ。恵多的にはかなり選りすぐったつもりだが、多過ぎたかもしれない。
「基本、リビングに置いとくか。よく使う本だけ個室に持ってきゃいいだろ」
「えっ、いいの?」
「ああ。何の問題もない」
箱の側面にはすべて油性マジックインクで『書籍』と書いてある。
我ながら、あまり個性のない字だと思う。
子供の頃は字が下手なのが悩みだった。「上手じゃなくても読み易い字を書ければ十分よ」と章江に言われて一念発起し、ひと文字ひと文字、教科書の文字を真似ながら丁寧に書いている内に、今の感じに落ち着いたのである。
「あんた、綺麗な字を書くよな」
凱が言った。
「えっ?そう?君の方がずっと字が綺麗だけど」
凱の書く字は綺麗なだけでなく風格がある。漢字の崩し方も若さに似合わずクラシカルで格好いいなと思う。
「俺、書道やってたからな。ジジィみたいな字だろ」
「ジジィって」
ふふ、と恵多が笑うと、凱の目の光が柔らかくなった。
アッシュブラウンの瞳にじっとみつめられ、ドキリと胸が鳴る。
大きな手に肩を掴まれ、恵多はおずおずと顎を上げた。
凱は少し屈んで、恵多の唇にふわりと優しいキスをした。
「…」
「…」
しばし無言でみつめあい。
突如目の前で勢いよく凱が首を振った。
「片付けるまでエロいことすんのはお預けだ」
「えっ」
凱はジャージの袖をまくり、重たいダンボール箱を軽々と持ち上げる。
「リビングの壁面でいいか?恵、指示してくれ」
真っ赤な顔で固まっている恵多をみて、凱がニヤリと笑う。
「終わったらうんとエロいことしような」
「!!!!!」
恵多は目を白黒させた。
これからこんな毎日が続くのだろうか。
無理だ。
心臓が、壊れる。
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