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「ねぇ山口。五十嵐くんから最近どんなこと訊かれたの?」
「そうですねぇ。どんな体力作りをしているか、とか」
「体力作り?どういうこと?」
「若い子は体力も精力も無尽蔵だから、求められてもついていくのが大変みたいですよ」
「あら、エッチ」
…そうだったのか。
凱も、自身が暴走気味なことは重々自覚している。
次こそは手加減しようと反省するものの、毎回、理性が本能に敗れ去ってしまう。
あの男がエロ過ぎるからいけない。
無自覚に煽ってくるし。
やたらと感度がいいし。
大体、声がエロ過ぎる。
…とまぁ、全部言い訳なのだが。
待て。
今は他に考えなければならないことがあるはずだ。
カウンターに置いていたスマホを取り上げ、凱は内心で唸った。
この状況を、五十嵐恵多に知らせるべきか。
いや。
仕事中に連絡するのは憚かれる。
この事態を知ったら、あの男は責任を感じて帰って来るに違いない。
それに、五十嵐恵多は凱と違って義理堅い人間だ。
心配してくれる友人達に面と向かって嘘をつくことに苦しみ、自分を責めるかもしれない。
出来れば彼らに…特に今日の東雲には、会わせたくない。
ならば、何とかして今晩中に、奴らに帰って貰うしかないだろう。
山口海渡はコーヒーを飲み干すと、マグカップを手に立ち上がった。
カウンターの向こうで、スマホを手に空を睨む凱をみつけ、首を捻る。
「お孫さん、どうしたの?五十嵐から何か連絡あった?」
ゆっくりと、凱の視線が山口に移る。アッシュブラウンの瞳が、山口を捉えた。
「…いや」
「五十嵐、いつ戻って来る予定?」
「明日の早朝」
「そっか。まだ時間があるね」
「ああ」
「…」
気まずい沈黙が流れ、山口は完璧に整った凱の顔をみつめた。
ドーナツ屋でも思ったが、彼は基本的に無表情だ。
ポーカーフェイスの裏側で何を考えているのか分からず、中々に感情を読み辛い。
怒っているのか。呆れているのか。
いっそ思うところを口にしてくれれば…。
いやいや、そうじゃない。
そもそも、五十嵐と凱が住んでいるマンションに、夜更けに押し掛けてしまった自分達が悪いのだ。
「迷惑掛けてごめんね。出来るだけ早くお暇するから」
声を潜めると、凱がほんの少し目を見開いた。
そして、首を捻って右をみる。
「おい。赤眼鏡。どさくさに紛れて勝手に恵の部屋に入るな」
その時、インターホンが鳴った。
!!!
皆が顔を見合わせる。
凱はゆっくりと応答ボタンを押した。
「…はい」
『ごめん、僕。もう寝てた?』
インターホンのスピーカーから流れる五十嵐恵多の声に、その場にいる全員が息を呑んだ。
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