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3rd contact 宇宙誕生
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※【君の音色はブルージー】第25話146頁まで読み終えた方推奨です※
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あろうことか、風呂場で爆睡。
あげく朝まで眠りこけ、凱のベッドで迎えた朝。
羞恥のあまり布団に潜って現実逃避しそうになった恵多だが、体の方はすこぶる軽い。
いつになくスッキリしているのは何故だろう。
別宮邸から徒歩で帰宅。
バタバタと身支度を整え、車に乗り込む。
と、上着の内ポケットでスマホが震えた。
着信だ。
「もしもし?山口?朝からどうした」
『どうしたもこうしたも…お前今どこ?』
「僕?家だよ。今から出勤するところ」
『あー、ならいいわ。また電話する』
「?少しぐらいなら話せるぞ。何かあったのか?」
『何かって…五十嵐、お前一体どうするつもりだ』
「何を?」
『何をって…出向の話、受けたんだろ?遠距離恋愛は初心者にはかなりハードル高いぞ。相手の子には話したのか?』
「いや、まだだ。今晩二人で話をしようと思ってる」
『まさか別れ話じゃないだろうな』
「諦めるっていう選択肢は僕にはないよ。今後のこともちゃんと話し合って、理解してもらうつもりだ」
『さすが五十嵐、よく言った。何かあったらいつでも相談してくれよ。俺に分かることなら何でも訊いてくれ』
「ありがとう。あ…と」
実は、ひとつ質問があるんだが。
風呂場で恋人に髪を洗って貰っていたら、あんまり気持ち良くて全裸のまま寝落ちしてしまった。
…そんな時、山口ならどうする?
『五十嵐?どうした?』
「ああ、ごめん。何でもない」
無理だ。そんなこと山口に訊ける訳がない。
しかも朝まで爆睡してまったく記憶がないなんて言ったら…絶対に呆れられる。
仮にもし。
恵多にその時の記憶があったとしたら。
山口に話すどころか一生布団の中から出て来れなかったかもしれない。
「恵、流すぞ」
凱はひと声掛けて、恵多の頭皮を擦っていた手を離した。
途端にカクン、と恵多の首が右に傾げる。
「おい、聞こえてるか?」
ぐらり、と恵多の上半身が前に傾いた。
「おっと」
凱は慌てて恵多の肩を掴み、背中を壁に預けさせる。
これは…完全に寝ている。
ポカンと口を開けて、幼子のように無防備な寝顔だ。
「…くっ」
クックック、と笑いが込み上げてくる。
いつも凛として隙のない男が、まるで遊び疲れた子供だ。
薄紅色の唇、上品な鼻、形のいい耳。
どこにも水を入れないように、凱は慎重にシャワーの湯をかけた。
「恵、終わったぞ」
むにゃ、と反応があった。
がまた、すぅ、と寝息を立てる。
「このまま体洗っちまうか」
凱はスポンジに泡を立てた。
何を言っても言い訳にしか聞こえないだろうが、この時凱は本当に、恵多の体を洗って風呂からあげようとただそれだけを思っていたのだ。
それがまさか。
自分があんなに暴走するなんて。
恵多が何も覚えていなくて本当によかった。
この時自分がやらかしたことは、絶対に、恵多には秘密だ。
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