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7th contact Zero Gravity
「お孫さん、今日は何のバイトっすか?」
真っ赤な苺がびっしり敷き詰められたタルトを頬張りながら、荒井が恵多に訊ねた。
少し落とした暖色の照明が、目の前の大男と苺タルト、ロイヤルミルクティーの入ったティーカップを柔らかく照らしている。
ゆったりした配置。ダークな色調のテーブルとクラシカルなデザインの椅子。
こんなに落ち着いた雰囲気のスイーツカフェがあるのか、と恵多は驚いた。
それもそのはず。恵多の持つスイーツカフェのイメージといえば、ピンクに白にフリル、うさぎのモチーフ…要するに『らびっと』一択なのだった。
東雲曰く、こちらのスイーツカフェは全国の主要都市に数店舗を展開しており、期間限定オリジナルケーキが最大の目玉なのだという。それらは季節毎、店舗毎に異なるため、このカフェのファンは限定ケーキを求めて全国を行脚するのだそうだ。
昨夜遅く、突然に荒井から恵多に連絡が入った。東雲と共に東京に遊びに来たので会えないかという。
驚いたが、とても嬉しかったので一も二もなく了承し、約束を取り付けた。
いつの間にそんなに仲良くなったのか、二人は昨夜山口の家に泊まったらしく、山口まで一緒にやってきた。
今日はここ銀座に位置するスイーツカフェで待ち合わせ、再会を喜んで今に至る。
凱は、今日もアルバイトに勤しんでいる。
深夜・早朝の時間帯を除いた時給の高いバイトを選んでいるため、家庭教師や塾講師などがメインだ。
「えーと。今日は確か、こども英会話教室の講師だね」
恵多が答えると、東雲が吹き出した。
「あの威圧感で?子供たちは大丈夫なの?」
「ああ…」
アルバイト初日は、子供らに怯えられて大変だったらしい。
凱をみるなり誰もがぴたりと立ち止まり、教室の中に入ってもくれない。
中学校で英語教師をしていたという六十代の女性経営者に腕を引っ張られ、「これを」と手渡されたのは、子供らが大好きな絵本のキャラクターが胸にでかでかとプリントされたエプロンだった。
凱は即座にエプロンを着けて戻ったが、残念ながらほぼ効果はなかった。
「あれ、弾いてもいっすか?」
教室の隅にアップライトピアノをみつけて指差すと、経営者の女性は意外そうに凱を見上げて頷いた。
凱は、エプロンのキャラクターが主人公のアニメ主題歌をピアノで弾き始めた。
キーも、コードも適当だ。
しかし、入口で足を止めていた子らには伝わったらしい。
わらわらと教室に入ってきて凱を取り囲み、皆大声で歌い始めた。
凱の隣に座ってぎゅうぎゅうとお尻を押し付けてくる子、足に抱き付いてくる子、もっと弾いてとねだる子まで現れ、今では凱のピアノで迎え入れるのがルーチンになっているらしい。
「そのあとなら合流出来るかも。バイト終わったら連絡来るから、東京に出て来れないかきいてみるね。彼も皆と会うの久しぶりだし、きっと喜ぶよ」
「あーお孫さんなら実はきの…」
何かを言い掛けた荒井に、東雲は思い切り肘鉄を食らわせた。
「いってぇ。東雲さんいきなり何なの?ヒデェよ」
涙目で訴える荒井を横目にみながら山口が後を引き継いだ。
「うん。俺らも久しぶりにお孫さんの顔みれるの嬉しいよ。な?二人とも?」
「え…いやお孫さ…」
「ええ!もちろんよ!」
荒井の言葉を遮るように、東雲が叫ぶ。
いつになく、東雲の受け答えが力強い。
「だってさ!よろしくな、五十嵐」
山口にいたっては、必殺の営業スマイルまでかましてきた。
そうか。
皆、凱に会えるのがそんなに嬉しいのか。
だったらうちに招待すればよかったかな。
いや、あんな遠くまで来てもらうのは悪いし…。
昨日、皆があんなに遠くまで押し掛けていたことなど、知る由もない恵多であった。
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