<ホラーEND>君は蜃気楼の中3

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<ホラーEND>君は蜃気楼の中3

「暑くないんですか?」 「私ずっとここで座ってたからかな。そうでもないや。君は暑そうだね」 「外ってすっごい暑かったから」 「ごめんね。ここクーラー付いてなくて」 「いえ。全然大丈夫です」 そして恐ろしい時間が訪れてしまった。それは沈黙。会話が途切れてしまったのだ。笑みを浮かべたお姉さんがこっちを見ているというこの状況は嫌ではない。むしろ嬉しいだけど正直言って気まずい。 クソっ。もっと俺にコミニケション能力があれば。このままでは退屈な奴だと思われてしまうかもしれない。何か、何か話題を探せ。俺は頭をフル回転させた。 「そ、その本おもしろいですか?」 咄嗟に俺はお姉さんの片手が持っていた本を指差した。お姉さんは指から出る見えない線を目で辿り手元の本に行きつく。 「これ?」 そして本を上げて見せた。 「はい」 「楽しいよ。私は6回も読んじゃった」 「そうなんですね。俺も読んでみようかなぁ。売ってますか?」 小説なんで普段読まないくせに俺。 「君も本読むんだね。何だか漫画が好きそうだけど」 「読みますよ。大好きです」 調子いい奴め。漫画でたまにある説明文でさえ読むのめんどくさがるくせに。 「最近はどんなの読んだの?」 「えーっと……。さ、包落(ほうらく)暑紐(しょちゅう)とかですかねぇ~」 さっき店内を見ている時にたまたま見た名前だけど思い出せてよかった。 「ならこれも気に入るかもね」 するとお姉さんは手招きをした。当然俺は近づきレジを挟んで立った。 「はい」 お姉さんはそう言うと持っていた本を差し出した。俺はあまり意味が理解できてなかった。 「これ貸してあげる」 「え? でも……」 「もし面白かったら買ってあげてね」 もしや俺が普段小説を読まないことがバレてしまったのか? でもここで借りればまた会いにくる口実が出来る。なら答えはひとつ! 「じゃあお言葉にあまえて」 俺はカウンターに置かれた本に手を伸ばした。
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