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箸を止めることなく、創太は答えた。
「いえ。面識があるのは女性だけです。」
「あぁ、でも留学生の彼と会うのは2回目かな。」
そう言って、創太は肩をすくめた。
橋本は特に気にすることなく、昼食のネタにしようと思ったのか、質問を続ける。
「一緒に帰るって言ってたけど、近いんですか?」
未来は答えに躊躇したが、隠す理由が見当たらず、正直に話し始めた。
「成り行きと言うか何と言うか、もう1人いた彼は地元の後輩なんですけど、おばあさんの家だった2階の部屋に住んでいて、留学生の子は、下宿しているんです。偶然、そこの1階が空いていたので、自宅兼事務所として借りられることになって、助かってるという感じです。」
「そのうちに、さっきいた私の親友と後輩の子がつき合うようになって…。なんか改めて話してると、縁って不思議ですね。」
橋本の隣に座っている創太も、いつしか真剣な目をして未来の話しを聞いていた。
「なんだか、凄い偶然ですね。」
橋本は感心したように頷き、未来は、ええ、とだけ返した。
「偶然…ね。」
創太が呟くと、そうだ、と橋本は思いついたように声を上げた。
「そう言う道田さんと中西さんだって偶然の再会だし、人の出会いって面白いもんですね。」
そう話す橋本と目が合って、未来は再び、ええ、とだけ返事をすると、創太が口を開いた。
「橋本さんは働き出してから、ここで再会した学生時代の同級生とかいないんですか?」
「ああ、いますよ。」
と矛先が橋本に変わったところで、未来は内心ホッとして、添えられたマカロニサラダをひとつ箸でつまんだ。
そして昼食を終えた未来は、一足先にその場を後にすると、綾香に電話をかけた。
「未来?こっちはもう少し時間がかかりそうだから、私だけそっちに行くね。」
そう言って電話を切った綾香は、すぐに小走りでやってきたかと思うと、未来の腕をむんずと掴み、人けの少ないソファーを目ざとく見つけて、勢いよく座った。
「ちょっと会わない間にどうなってるの?」
声を荒げたいのに必死に抑えているのか、少しかすれたような声になっている綾香に、未来は困ったように笑った。
「私だって本当にびっくりしたんだよ、最初は。観光協会の授賞式で…」
と未来が言ったところで、まった、と綾香は手を広げて未来の話を遮った。
「そうだよ、ごめん。直接はまだ言えてなかった。キャッチコピー大賞おめでとう。」
「大賞じゃないよ。でも、ありがとう。」
クスクス笑いながら、未来は言った。
「それでね、その授賞式で紹介された代理店の担当者が、道田さんだったの。」
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