偶然

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「それで?なんで今日も一緒なの?」 眉間に皺を寄せる綾香に、未来はこれまでのことを説明した。 「これから1年も一緒に仕事するの?よく社長様が許したね。」 「私の仕事のことを、考えてくれてのことだと思う。」 綾香はまだ何か言いたそうにしていたが、複雑な表情を浮かべる未来を前にして、唇を噛む。 そんな綾香の心配する気持ちがひしひしと感じられて、未来の表情は少し和らいだ。 「もちろん何事もなかったように、とはいかないよ。でも、お互い仕事は仕事として、頑張ろうとしてる。」 すると綾香は我慢できないと言った様子で、あーあと大きな声を出した。 「そういうとこ。そんな綺麗事じゃないよ。」 途端に未来は、眉間に皺を寄せた。 「もし慎くんの元カノが同僚だったりして、お互い割り切ってやってるなんて言われたら、お互いって何?って思っちゃう。」 綾香の話を、どこか納得いかないような表情で聞いている未来に向かって、綾香は言い放った。 「とにかく!面白くない‼︎」 口を尖らせて駄々をこねる綾香に、未来も負けじと反論する。 「それで?綾香はもしそうだったとしたら、清瀬くんに仕事を辞めてって言うの?」 綾香は恨めしそうに、未来を睨む。 「そんなこと、言えない。」 未来は綾香を睨み返して、ほら、っと言った。 その時だった。 「どうしたの?睨めっこして。」 綾香の頭にポンと手を乗せたのは、清瀬だった。 その後ろで、王も、未来と綾香の顔を交互に見ている。 「未来が苛める。」 綾香は未来を指差して、清瀬に訴えた。 「ちょっと、やめてよ。苛められてるのは、私の方よ。」 子どものように言い合う2人に、王は面食らったようだが、清瀬はフッと笑うと、再び綾香の頭をぽんぽんとした。 「はいはい。素直に心配だって言えばのに。」 「ね?先輩。」 年下の清瀬に見透かすように言われて、綾香も未来も恥ずかしくなってしまい、目を見合わせる。 「ごめん。」 と同時に口をついて出て、未来が、ありがとうと小さな声で言うと、仏頂面だった綾香は、にっと笑って立ち上がった。 「せっかくだから、みんなで甘い物でも食べに行こうか。」 「未来も、元カレとご飯食べる時間があるくらいなら、つき合いなさいよね。」 イタズラっぽく笑う綾香を、未来は睨んで見せたが、その口元には笑みが浮かんでいる。 それを諌めたのは、またしても清瀬だった。 「こら。またそんなこと言って。」 肩をすくめて上目遣いで清瀬を見る綾香に、未来は驚いて言った。 「びっくりした。清瀬くんって、ちゃんと綾香の手綱を握ってるのね。」 未来の言葉に、清瀬は照れたように笑ったが、綾香は心外だと言わんばかりだ。 「手綱って何よ。馬じゃあるまいし。」 と今にも噛みつきそうな綾香の手を取ると 「はいはい。行こう。」 と言って、清瀬は駐車場に向かって歩き出した。
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