偶然

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清瀬の雰囲気にあった、海外の映画で見たことのあるような可愛らしい車の後部座席に、未来と王は並んで座った。 「すみません。4人乗ると狭いですよね。」 と清瀬は恐縮していたが、車内は思いの外広かった。 駐車場を出て、打ち付ける雨を見ながら未来は言った。 「清瀬くんの車、初めて見た。普段はどこに止めてるの?」 「(うち)の後ろが空き地で、駐車場になってるの分かりますか?」 ルームミラー越しに清瀬が答えた。 未来は首を振って、知らない、と返事をする。 建物の裏側には、1階部分が隠れる程度のブロック塀があって、その向こう側がどうなっているのかなど、未来は気に留めたことがなかった。 「王くんは知ってた?」 隣に座る王に顔を向けると、とびきりの笑顔でハイと返事が返ってきた。 そんな顔をする理由がどこにあったのか分からず、未来は仰け反ってしまい、コンと窓ガラスに頭をぶつけた。 「ミキサン⁉︎」 驚いて伸ばした王の手に、未来のほんの数本の髪が触れる。 「ちょっと未来、どうしたの?暴れないでよ。」 助手席の綾香が振り向いて目にしたのは、そんな2人の姿で、なんだか見てはいけないものを見てしまったようで、慌てて前に向き直った。 「もう少しで、お別れだもん。これくらいは許そう。」 何かしらを呟く綾香に、当の未来は何事もなかったように言った。 「だって王くん笑顔を、こんな間近で見たら目がチカチカしちゃって。」 「おばさんには刺激が強いって?」 茶化すように言った綾香だったが、そうでも言わないと気持ちが落ち着かなかった。 「確かに。大学でも帰国を知って、泣いてる女の子が、いっぱいいるよ。」 運転している清瀬が、大真面目に言った。 「本当に…寂しくなるね。」 と、しみじみ言う未来に、綾香はすかさず言った。 「未来、違う。そこは、おばさんに反応して。」 「そこは反応するとこじゃない、スルーするとこ。」 綾香の気持ちをよそに、未来は笑う。 「そうだよ。僕は一度だってあーちゃんのこと、おばさんと思ったことないよ。」 相変わらず大真面目に話す清瀬に不意を突かれて、今度は綾香が仰け反る番だった。 「あーちゃんって呼んでるの、初めて聞いた。」 未来は、王に向かってコソッと呟いたつもりだったのだが、綾香にはしっかり聞こえたようで、横目で睨まれてしまった。 「聞こえたみたい。」 と、バツが悪そうに笑う未来に、王もつられて笑う。 それからショッピングモールの中にあるコーヒーチェーン店に入ったあとも、そんな他愛もないお喋りで楽しい時間を過ごしてから、未来と王を降ろした2人は、綾香の部屋へと行ってしまった。
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