1人が本棚に入れています
本棚に追加
偶然
お昼休みの喧騒の中で、良く知る声が聞こえて、未来は、人混みの合間を横切って流れの外に出た。
「やっぱり未来だ。」
意外な場所での鉢合わせに、皆が同じような表情で驚いた顔をして立っていた。
「綾香!清瀬くんと王くんも。みんな一緒にどうしたの?」
「王くんがね、帰国の準備があるって言うんだけど、この雨でしょ。たまたま私たちも休みだったから、慎くんの車でみんなで出掛けることにしたの。」
「なんか、みんな久しぶりだね。」
同じ建物に住んでいると言うのに、最近は顔を合わすことがなくて、思いがけず嬉しくなる。
「未来は仕事?」
「うん。でももう終わって、食堂に行くところ。」
と言ってから、先を歩いていた2人から離れてしまったことを思い出して振り返ると、創太と橋本がいつの間にか未来の後ろに立っていた。
「えっ…道田くん?」
目を見開いた綾香に向かって、創太はバツが悪そうに、久しぶりと笑った。
「観光協会の仕事をすることになって、偶然その担当代理店が道田さんの所だったの。」
少し慌てた様子で話す未来に、綾香は驚きを隠せないっと言った表情で、へぇ、と間の抜けた返事をした。
「ごめん、待たせてるから行くね。また今度。」
と未来が手を上げたところで、王に呼び止められた。
「ミキサン、シゴト オワッタナラ イッショニ カエリマショウ。」
えっ?と未来が聞き返すと、綾香もハッとした様子で、そうよ、そうよと首を縦に振る。
「どうせ電車でしょ?私たちも用事はこれからだし、あとで合流しようよ。」
未来が返事に困っていると、王は一歩前に出て言った。
「アメ。マタ カゼヒイタラ シンパイデス。」
そう言われて、以前の失態を思い出した未来は、おとなしく従うことにした。
「そうね。そうしようかな。清瀬くん大丈夫?」
未来が清瀬の方を見ると、もちろん、と清瀬は笑顔を見せた。
あとで落ち合う約束をして3人と別れてから、未来は創太と橋本に頭を下げた。
「ごめんなさい。足止めしてしまって。」
「大丈夫ですよ。行きましょう。」
そう言いながら、橋本の目は、反対方向に歩いて行った3人に向けられていた。
ごった返している食堂のオープンキッチンの前で、思い思いに注文した未来たちは、手にしたトレイを持って、どうにか4人掛けの席を確保して座った。
「彼、留学生?すっごいイケメンでしたね。男の僕でも思わず見惚れてしまいましたよ。」
いただきますと言ったと同時に、橋本の口から出た言葉に、未来は笑ってしまった。
「はい、台湾からの留学生です。でも就職が決まって、そろそろ帰国するんです。」
「道田さんも知り合いなんですか?」
何も知らない橋本は、無邪気に聞いた。
最初のコメントを投稿しよう!