(〇一)

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 俺の知る限りでは、武藤や莉緒のような付き合いをする男女は極力、本名などプライベートなことは明かさないものだからだ。 「なんか、根拠があるんですか?」 「はい・・・・」  と、武藤は再び歯切れが悪くなった。 「笑わんでくれますか・・・・」  武藤は俺を見て不安そうに訊くので頷いた。 「莉緒は闇金に借金をしてまして、その一部を私が催促無しのある時払いで立て替えたんです」 「一部って、お幾らですの?」 「約三〇〇万です」 「それは、また・・・・」  俺は笑うよりも驚いた。  世間ではネットニュースなどで、こういった出会い系で会った女や風俗嬢に入れ込んで、大金を貢ぐ話はヤマほど聞いたし、その殆どは女が姿をくらませて、男は泣き寝入りといったパターンの話をよく見るからだ。  武藤は俺のそんな内心の驚きをよそに、話を続ける。 「不動さんの言いたいことはわかりますし、勿論、私もそんな大金をホイホイ貸したりはしません。私は貸す代わりに、彼女に身分証明の提示を求めました」  武藤はそう言いながら携帯を取り出して操作すると、画面に一枚の写メを表示して、テーブルに置いて俺にその携帯を見せた。
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