男装の麗人

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男装の麗人

季節は2月、極寒だ。 霞澄姫は足を真っ赤にしながら遊女たちの飯場につく。 まわりがひそひそ話をする。 「かすみ姫、すごいねぇ」 「ほんと元気悪い意味で」 「あんなに美人なのに想像つかない、醜女のあっちに目のひとつでもわけてほしい」 「あの宝石みたいな目、混血だよねあれは」 ひそひそ 霞澄姫は悪口なんておかまいなし。 言わせときゃいいといわんばかりの無表情で 用意されてる白飯と漬物をガツガツと口にする。 そそそ、と霞澄姫に近寄ってくる遊女が一人。 高尾太夫だ。稲本楼の一番の売れっ子。 彼女はいかにも美人という美人。瞳が大きく白い肌に薄茶色の瞳、出身は新潟か秋田か、東北だという。 遊郭では「ありんす」とか独特の言葉が使われるので客にはお郷(おくに)ことばはわからないよう教育されているが、 この二人の場合違うようだ。 高尾太夫は霞澄姫と比較しておしとやか、自己主張がない穏やかに過ごすことこそすべてと思い生きている遊女。 「すずちゃん、大丈夫?私のお部屋で手当てするべ。飯も食うだ。」 「んあ?いらねぇよ気持ちだけありがとねん。」とがつがつご飯を食べる。 「だめよ、お客さんとらされるんだから、疫病にでもなっちまったらてぇへんだ!(大変だ)」 「エタノールでも後でぶっかけとく。吉原病院からとってきたのあるから」 「また、スズちゃんったら、、、」 「ウタはいつも平和でうらやましいなぁ。」とニコニコと二人穏やかな時間が流れる。 スズは、霞澄姫の幼名 ウタは、高尾太夫の幼名 二人は同期で同じ花魁の禿をし、推定同い年と思われる。 霞澄姫唯一の友達であった。 夕刻になり、その日はいつも以上に席がバタバタしていた。 なんと軍人さんが集団でご来店するそうだ。 しかもその上官は大金持ちの若い御曹司というもので、遊郭はその日は「貸し切りの為、本日は受付終了」と張り紙をした。 店の女たちは何が何だか知らんが準備にとりかかる。 男衆も失礼がないようバタバタと料理や席のセッティング、塵や埃がないかをチェックする。 そんな霞澄姫は高尾太夫と風呂に入った後、昼寝をし、ババアに「起きろ!お前指名できてるんだよ!」とたたき起こされる。 霞澄姫はさっそく指名が入っていて同期の高尾太夫と客のいる席へと向かう。 ふすまを開け、ババアが今日は決して粗相がないように! とものすごく怒鳴られる始末。 霞澄姫は仕事モードとなり、しとやかに接客をする。 「高尾太夫と霞澄姫でございます、どうぞ本日は心ゆくまでお楽しみくださいませ」 「お顔をおあげよ、かわいいマドモアゼル」 その通り二人で顔をあげると、ざわつく軍人の中に一人際立って美しく、軍服を着ているけど、少し華奢。だけど凛々しい殿方がいた。 霞澄姫は驚きとともに一瞬でわかった 「こいつ、女・・・?」 軍服の男装の麗人は微笑んで近づいてきた。
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