よしこさん

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よしこさん

霞澄姫(かすみひめ)の名前は 4日弱で ジャンヌ ド ヴァロワになった。 女学生にあこがれていた日本で暮らす瞳色と髪色がちがう女は 大陸のフランス居住区にて正式な、貴族の、フランス人になった。 髪の色は金髪ではない。 でもアジア人と比較するとあきらかに薄すぎる栗毛色 瞳の色は沖縄やら、伊豆の海やら、はて青森色と言われてきた。 上海に来たら、なんとやら 「Where are you from?」ときかれる。 なんなんだこの世界。 大日本帝国がおかしいのだろうか。 「きえろ、うるさい、じゃじゃ馬、せめて見世物として残しておくか」 東京ではいじめ蔑まれたことしかない。 皆と同じ風貌、身なりでないと、やっかいもの扱いをされてた。 霞澄姫という名を与えられた私は正式な 国籍、貴族、名前、いじめらぬ環境 この4つを瞬時に手に入れられた。 むしろ不思議でならない。 逆に怖い。 無知な私ははじめて芳子さんから世界地図というのを見せてもらった。 日本はもっと大きくて広い島国だと思ってた。 小さすぎる。 島国。 ていうか島? 私が、学んでるアイランド、いわゆる、列島か。 「island」に該当するのか? それで日本はアジア各国を占領しようと戦略しているのか 捨てられ、いじめられ、さげすまれ、折檻され続けてきたあたいにはわからない。 養父と養母は非常にやさしくしてくれて わたしにとっては仏様にみえたが 彼らは日曜の午前中、フランス人のカトリック信者が集まる十字架のある場所にいつもつれていかれ、ランチをする。 そして私は洗礼を受けたのだ。 え。これがクリスチャンというのか? 名前を選べと言われた。 知識のない私は、とっさに読みやすかった「テレサ」と言ってしまった ジャンヌは正式名 でも、ブルボン王朝時代にやらかした奴の名前がジャンヌで 革命をおこしたややこしい女がジャンヌだとかで。 洗礼名はTeresaとなった。 あたいにはどうでもいい。 せめて、ジャンヌ で覚える気でいたんだけど。 私はあまりにも無知すぎた? 私が決めた、私自身に非があるのか? もはや自分が自分軸で、将来の希望を考える余裕がなくなってきた。 毎日帝大の女学生と話すのが、唯一の癒しで 良輔さん、もとい、芳子さんはなかなかフランス居住区にはいらっしゃらなくなった。 関東軍の影響か 「東興楼」という店のオーナーになったという噂を女優さんの山口淑子さんからきいた。 淑子さんも仕事が忙しく、また日本人であるのでとてもいそがしくそっとしか話を聞けなかった。 私は、ものすごく芳子さんの様子を気にしてた。これが恋というやつなのか? 遊郭のリアル版なのか 私は洋装のナリで東興楼に閉店前にのぞきこみにいった。 すこしでも話がしてみたくて。 そしたら良輔さんではなく、芳子さんと、田中という私も見たことがある関東軍の下司官がいた。 田中、あいつ、ウタが最後の仕事をしたとき吉原にいた軍人で下司官ではないか! 心底腹が煮えくり返る思いだった。 田中は日本に妻子がいながらも芳子に首ったけのようだ。 芳子さんは男装ではなく、チャイナドレスで10センチはあるヒールで 田中の顔をふみつけていた。 「君のようなやつは本土へ帰れ!用はない!」 田中氏は芳子の太ももにしがみついてはなれない。 「芳子!君がいないと士気がおちてたまらんのだ、小さくもろくやせた白い肌、すべでは俺のものではないのか?」 ジャンヌは思った、え、遊郭でいえよ妻帯者のくせによぉ、法律で負ける案件じゃねぇか?と。 キレる寸前。 川島氏が怒りを爆発させた。 太ももに忍ばせていたドイツ製の拳銃を天井にぶちまかした。 「お前の心臓か、下半身、子孫を残し欲を欲せさせるソコにもう1発かましてさしあげようか?」 と若干ふるえながら発言し、姿勢威勢がいい川島氏 「心までみにくい輩はでていけ」と川島氏は震えながら言い放った。 田中氏は何も言わず東興楼を飛び出していった。 霞澄姫、もとい、ジャンヌは女装姿の川島氏を初めてみたもので あんなにもろく、ほそく、小さいお方で。 軍服姿の時は重ね着、ブーツはきっとかさまし。 160あるあたいより少しい大きい感じだった。 きっと実際の身長は152センチ弱、体重は50キロ前後だね。 あたいより小さい。 抱きしめて逆にあたいが守ってやらないと こわれてしまいそうで 正直、160センチメートルほどあるジャンヌより小さく細く見える。 本当は心もしんどくなかったのではないだろうかと お互いにわかっていたはず。 霞澄姫(ジャンヌ)は さぞ心労がおありなのではないかと、思った。 威勢をはっていた昔の自分を思い出しては、知識がありながら思い通りに動けない芳子を不憫に感じていたのか。 芳子は、ジャンヌの視線に気づいた。 「ああ。君に。恥ずかしい姿を見られてしまったね。」 「・・・・・」 ジャンヌは何も言えず東興楼に立ちすくんだ。 「いらっしゃいませ。東興楼へ。今宵はわたくしとあなたさましかいらっしゃいませんのでゆっくりしていってくださいね」 良輔さん、もとい、芳子さんになっている! ジャンヌの頭の中は混乱しどうすればいいわからない状態 男 女 男女 二刀流? いや、そんなことはどうでもいいんだけど、大丈夫なのかな 関東軍の奴いたよな、さっき。 と、 ジャンヌは心配しかしないのに 芳子は女装で、やはり顔は男装の麗人。 涼しげなめもとと、漆黒というか濃いめのブラウンの瞳が私をみつめる。 芳子は、芳子なのだよ、といわんばかりの眼力 こういう時は女学生や労働者のていでいくのがいいのだろうか 救ってくれた人に、どう対応すればいいか悩むジャンヌ そう思ってるときに義母が迎えに来た。
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