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次の日、教室に彼はいた。私はなるべく見ないようにした。教室にいてほしかったからだ。見るとまた廊下に消えてしまう気がした。
しかし、今日の彼は違った。私の席に歩いてきて、立ち止まった。
彼はまっすぐ私を見て、静かに言った。
『時間だよ。行こう』
ひぎゃっ
私は、思わず素っ頓狂な声を出した。
『行かなきゃ……。ね?』
彼は私を軽々と抱き上げた。
私は、毛むくじゃらの小さな物体に過ぎなかった。
……そうだ。
私は、三毛猫。
子供が賑やかにしている横で、喧騒を子守唄に昼寝をするのが好きだった。いつも学校について来ていた。
実体が無くなった後も、学校に通う子どもにくっついて、同じように通った。
『学校が無くなるんだ。通っても仕方ないよ。一緒にいこう』
少し前に、そう声をかけてきた彼は、修君。彼もまた、この学校に思いを残して通っていた。
私は最後に、喧騒の中に入ってみたいことを伝え、昔の誼みで協力してもらうことになった。
高校生の女の子になったかのような、ごっこ遊び。
修君を恋愛の相手に見立ててみたが、実体の心臓は疾うの昔に無いのだ。熱情も何も感じようがないのは致し方ない。
でも……、楽しかった。
楽しかった!
ここで時間切れだ。
周りをよく見ると、三十人の席は満席だ。実体が無いモノほど学校に来たがる。心残りのモノたちは皆、廃校になるこの学校を名残惜しむように、消えてしまう最後までここにいる。
ここは取り壊され、更地になる。生きてる生徒たちは他の学校へ行くが、我々は馴染みのない場所へ行く理由はない。潮時だ。
あぁ、終わるのだ。
ついに終わるのだな。
私は修君の腕に飛び乗って、目を閉じた。
いつもの喧騒が聞こえる。
この声たちの中心に入ってみたかった。彼女たちと同じ気持ちを味わってみたかった。
残念ながら、赤い糸の先から放出される熱情は体験できなかったが、柔らかいバリアーは今、感じている。
懐かしい、もうすっかり忘れていた暖かい温もりのバリアー。久しぶりに思い出せた。
周りの生徒たちの賑やかな声に包まれて、私は安心して眠りについた。
了
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