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顔を上げると意地悪く目を細める。これ以上つつくと余計な方向に会話を持っていくと忠告された。
私の考えすぎだろうか?
単にリツさんの話しをしたくないだけ?
気になりながらも「ごめん」、謝って黙る。
すると小さく口角を上げてまた視線を前へと戻し、一呼吸おいてから「花江さんは」、言葉を切り替えた。
「理亜都の夢の中で何をみたの?」
「何って」
「苑は、何かをみてたって」
見つめられ、瞬きをしたのと同時に七色に瞬く光りをみる。
「花江さん?」
小さく息を吸って、桜くんを見る。いま、何かみてた気がする。でも何か、分からない。光りが瞬いて、それで……何だった?
「大丈夫?」
訝しげな眼差しを「あ、うん」、笑顔で誤魔化し、いつの間にか立ち止まっていた足取りを進めながら「私が、夢でみたのは」、言葉を繋げる。
「咲間さんと……紺野くん」
「咲間さんって、紺野くんの角膜を移植した子だよね?」
「そう」
少し考えるような顔をした桜くんに「睦月に〈入っ〉てた紺野くんは」、一応、確かめる。
「〈促し〉た?」
「ぼくが〈促し〉たんじゃないけど。そうは聞いてる」
早口で言ったあと「それで? 何があったの?」、催促され――「急に現れた」、記憶を辿りながら口を動かす。
「咲間さんの目から私の目に……何かが飛び込んできたの。それで目を閉じて開けたら体育館に紺野くんがいて……言ったの」
そこで一度言葉を切り「何かが起きて」、記憶を辿っていく。
「そこに……松瀬くんが現れて。引っ張られて連れていかれたけど……自分は怖くて逃げたって。場所を見つけたから。でもその場所を分けてくれた人が怒って」
「それは、誰?」
「顔を見たんだけど……見覚えがなくて」
桜くんは目を逸らしたあと、前を向き、黙り込む。
「何、どうしたの?」
「どんな感じの人だった?」
「20代か、もしかしたら30って感じかな」
「イケメン?」
茶化すように聞くから「何それ」、眉を顰めると小さく笑ったあと、大通りの信号が赤なのをみて足を止めた。
「興味深いね」
「どういう意味? 何か分かった?」
「ピースが揃ったから、あとは組み立てるだけって感じかな」
「ピース? 他にどんなピースがあるの?」
「完成したら教えるよ」
「完成してるんじゃないの?」
「してないよ」
口角を上げ、青になった信号を見て再び足を進める。
「ウソついてる」
「ついてない」
意地悪く言う桜くんを見て「私の質問に答えたのは」、今更気付いたことを口にする。
「パズルを完成させたかったから?」
考えれば、こっちから聞いてもないことも話してた気がする。
「そんなことないよ」
意地の悪い笑顔を見て、絶対うそだ、と思う。手を放そうとしたけど「ほらほら、小向が待ってるから」、辿り着いたファミレスのドアを開けて促された。
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