ACT 2

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「”松瀬くん”はどうしたの?」 金森くんの声に、目を向ける。 「……どう、だろう」 曖昧に口角を上げて見せると、金森くんは少し考えるような顔をしたあと「”松瀬くん”は」、口を開いた。 「おれを助けてくれた。芽愛里さんも、いたよね?」 瞬間、松瀬くんの――揺るぎない黒目に映る『悪い、芽愛里』――自分の顔を思い出す。 ”私より金森くんを助けることは分かってた、仕方ない、仕方ない” 何度も自分に言い聞かせた、あの瞬間を。 「の記憶は、曖昧で鮮明で、朧気(おぼろげ)に鮮烈に、記憶の底に張り付いているんだ。何がどうだと言葉では言えないけど、邪悪で不快な感覚が残ってる。それは皮膚に記憶の底に(まと)わり付き……感情を揺らす。をどうにかしたいのに、どうにも出来ない。だから前以上にたくさんの映画やドラマに出て、色んな役を演じて忘れようとしたけど、上手くいかなくて。でも」 一度、視線を落としたあと「小向と出会って、変わったんだ」、上げる。 「(まと)わり付いてる記憶は消えないし、相変わらず不快だけど……出会った瞬間、に小向が現れた。そして何をするわけでもなく、ただ佇んでる」 言葉はかなり抽象的で、何を言いたいのか分からず見つめていると――「似たようなことが、前にも一度あった」、人差し指を立てて見せ、握る。 「おれはかなり不器用で、すぐに上手くいかないことのほうが多いし、それは今も変わらない」 「不器用? カメレオン俳優だって言われてるのに?」 「おれはただ、少しでも自分以外の誰かになりたいだけ。自分じゃない時間があるから生きてこられた。つまり……生きる為に演じてる」 重い言葉だな、と思う。それでも違う誰かを完璧に演じられるのは才能だよ、と言いたかったけど、それは意味のない言葉だとも分かっていたので、黙って繋がる言葉を聞く。 「おれは不器用で、たくさんの努力がいる。でも”マジメに一生懸命”なんて恥ずかしいから……明るさと勢いで誤魔化してた。つまりそれは本来のおれじゃなくて、すごく疲れるときもあった。そんな偽物の、おれの中に突然、現れたのが……詩くん」 見つめられた瞬間、何故か咳き込み「大丈夫? 水、飲んだ方がいいよ」、グラスを差し出される。 そういえば、いつ水を持って来たんだろう? 考えながらも飲んでいると、店員さんがコーヒーと紅茶を持ってきて置いて行った。
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