ACT 2

61/62
前へ
/99ページ
次へ
「私……紅茶、頼んでた?」  「頼んでた、けど」 「いつ?」 「2人が席を離れてすぐ……だったよね?」 訝しげに確認され、そうだった? 考えながら紅茶を見て「芽愛里さんは」、金森くんの声に視線を上げる。 「桜果さんと付き合うの?」 「えっ? まさか、そんなわけ」 「桜果さんは、芽愛里さんのこと好きって感じがしたけど」 「それは……まあ、どうだろう」 「”松瀬くん”とは?」 「……それは」 「別れた?」 黙って視線を落とし「でも、まだ好き?」、上げる。 「だから付き合えない?」 「……桜くんとは、そういうんじゃなくて」 「なくて?」 「なくて……」 なんでこんな話し、金森くんとしてるんだろう? 返答に困っていると「じゃあ」、言葉を切り替えた。 「桜果さんと小向の関係は?」 「桜くんと小向?」 「小向は桜果さんのこと、好きだよね?」 また返答に困っていると「不思議だなって思ってたんだ」、コーヒーを一口飲んで、言葉を繋げた。 「毎日メールを返してくれるし、電話に出て話しもしてくれる。会いたいって言えば時間も作ってくれる。だから告ったんだけど……断られた」 「ええっ! 告白したの!」 声が大きくなってしまった。思わず口に手当てた私を見て、金森くんは苦笑いしながらも「そして断ったあとも」、話し続けた。 「未練がましくメールや電話をするおれに付き合ってくれて、今日も会ってくれた。本当に、なんでなんだろうって、ずっと思ってたけど」 そこで一度、大きく息を吸って、吐く。 「芽愛里さんと、同じ。願っても叶わない相手を好きになってる。だから諦めたい、諦めさせて欲しい、でも諦められない。複雑な気持ちが混ざり合ってて、おれを――桜果さんを、振り切れない」 見つめるだけの私に「非難してるわけじゃないんだ」、小さく口角を上げた。 「おれも同じ気持ちになったこと、あるから。一方的で叶わないと分かってたから止めなきゃって、でもどう止めていいかも分からなくて、もがいてた。会う度、見つめる度、真っ直ぐで、真っさらで、強くて優しい心に、惹かれて、どうしようもなくて」 不意に、金森くんの表情が固まった。それで気がつく。身を乗り出して、金森くんの頬に触れていたことを。 「ご、ご、ごめん!」 何やってるんだろう!  慌てて手を引っ込めながら座ったとき。
/99ページ

最初のコメントを投稿しよう!

32人が本棚に入れています
本棚に追加