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「私……紅茶、頼んでた?」
「頼んでた、けど」
「いつ?」
「2人が席を離れてすぐ……だったよね?」
訝しげに確認され、そうだった? 考えながら紅茶を見て「芽愛里さんは」、金森くんの声に視線を上げる。
「桜果さんと付き合うの?」
「えっ? まさか、そんなわけ」
「桜果さんは、芽愛里さんのこと好きって感じがしたけど」
「それは……まあ、どうだろう」
「”松瀬くん”とは?」
「……それは」
「別れた?」
黙って視線を落とし「でも、まだ好き?」、上げる。
「だから付き合えない?」
「……桜くんとは、そういうんじゃなくて」
「なくて?」
「なくて……」
なんでこんな話し、金森くんとしてるんだろう? 返答に困っていると「じゃあ」、言葉を切り替えた。
「桜果さんと小向の関係は?」
「桜くんと小向?」
「小向は桜果さんのこと、好きだよね?」
また返答に困っていると「不思議だなって思ってたんだ」、コーヒーを一口飲んで、言葉を繋げた。
「毎日メールを返してくれるし、電話に出て話しもしてくれる。会いたいって言えば時間も作ってくれる。だから告ったんだけど……断られた」
「ええっ! 告白したの!」
声が大きくなってしまった。思わず口に手当てた私を見て、金森くんは苦笑いしながらも「そして断ったあとも」、話し続けた。
「未練がましくメールや電話をするおれに付き合ってくれて、今日も会ってくれた。本当に、なんでなんだろうって、ずっと思ってたけど」
そこで一度、大きく息を吸って、吐く。
「芽愛里さんと、同じ。願っても叶わない相手を好きになってる。だから諦めたい、諦めさせて欲しい、でも諦められない。複雑な気持ちが混ざり合ってて、おれを――桜果さんを、振り切れない」
見つめるだけの私に「非難してるわけじゃないんだ」、小さく口角を上げた。
「おれも同じ気持ちになったこと、あるから。一方的で叶わないと分かってたから止めなきゃって、でもどう止めていいかも分からなくて、もがいてた。会う度、見つめる度、真っ直ぐで、真っさらで、強くて優しい心に、惹かれて、どうしようもなくて」
不意に、金森くんの表情が固まった。それで気がつく。身を乗り出して、金森くんの頬に触れていたことを。
「ご、ご、ごめん!」
何やってるんだろう!
慌てて手を引っ込めながら座ったとき。
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