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「ここを出るのだ」
頭で思うより先に、大きく鼓動が跳ねた。
だって、その声は。
「……ま、つせ……くん」
鎖がいくつも絡まったハードな黒いブーツに、縦横無尽にチャックが付いている細身の黒いパンツ。シャツは黒と赤の左右色違いの大きめノーカラー。そして珍しく、黒い帽子を被っている。カンカン帽よりツバが短く上を向いていて、リボンはシャツと同じ赤。
相変わらず個性的過ぎる、目立つ格好をしてるなと思う。指摘したいけど、丸眼鏡の向こうの眼差しは、初めて会ったときみたいに不機嫌そうで、すぐ傍に立っているのに、話しかけられたのに、すべてを拒まれているように感じる。
「2人に付き合う」
「……な、に……付き合うって」
とにかく突然過ぎて、言いたいこと、聞きたいコトが沢山あったのに上手く聞けない。ただ言われたことしか繰り返せない。
「早くするのだ。気付かれている」
飛んだ松瀬くんの視線を追うように店内へ向けると、何人かがスマホをこちらに向けていた。本当だ。全然、気付かなかった。
「さあ、早く」
松瀬くんは目配せしたのと同時に歩いていくから、慌てて金森くんと追いかける。会計は終わっていたみたいで、そのまま出ても何も言われなかった。
いつの間に?
一体、いつからここにいたの?
だいたい、どうしてここに?
付き合うって何?
同じ疑問が、ぐるぐる、ぐるぐる回る。
「乗るのだ」
道路の端に止めてあった――前に大きくGMCとある大きな赤い車に誘導され、金森くんと一緒に後部座席に乗り込む。
するとすぐにエンジンを掛け、カメラを片手に出て来た人達を振り切るように走り出した。
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