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乱歩と少年物
江戸川乱歩は本来は一般向けのミステリー作家である。
ところが少年少女向けの作品でも大成功を収め、到底少年向け専門の作家がかなうところではなかった。
戦前、乱歩は講談社の雑誌を中心に連載した通俗長編で莫大な収入を得たが、評論家の中川右介は、著書『江戸川乱歩と横溝正史』(2017年 集英社)の中で、一番収入を得たのは少年物であろうとしている。
東京創元社の元社長で編集者、ミステリー評論家として名高い戸川安宣は『幻影城増刊 江戸川乱歩の世界』(1975年 絃映社)に寄せた『乱歩・少年ものの世界』の中で次のように記している。
<乱歩の少年もののヒットは、代作者による大人ものからの改作の出現にとどまらず、漫画本から、映画、ラジオ、TV、その他ゲーム類の登場を見るまでになった。その少年ものに関する部分だけで年譜を作成してみると、それだけで優に一人の作家の全仕事といっておかしくない程の厖大な量にのぼる>
乱歩の少年物の中心となったのが、戦前から書き始めた「少年探偵団」シリーズで、亡くなる三年前まで書き続けられた。
<戦前には長編が四作、戦後は長編、中編あわせて二十四を数えるこのシリーズは、数多の少年探偵ものの中で、最も花々しい成功を収めたのだった。
雑誌連載時から、少年読者の圧倒的な支持を得たばかりか、単行本になってからも爆発的な売行きを示し、戦後の乱歩の一番の収入源となったのである>
そして作家の宗谷真爾のエッセー『怪人二十面相』を紹介している。
後の作家、小児科医の宗谷は戦前、小学四年、五年の頃に、『怪人二十面相』を借りるため、毎日、街の図書館に通った。
だがそれは宗谷だけではなかった。少年たちは乱歩の「少年探偵団」シリーズが返却されるのを虎視眈々と狙っていたのである。
そしてある日。返却された『怪人二十面相』が、いかめしい図書館長によって書棚に返却されようとしたときだった。
<(子どもたちが)四方八方からワッととびかかり、腕へかじりつく者、洋服のボタンをひきちぎってしまう者さえいたが、かんじんの本には、三、四人の手がかかって、うばいあいになってしまった>
↓ポプラ社版「少年探偵 江戸川乱歩全集」第二巻『怪人二十面相』
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