乱歩作品少年向け改作への道①黄金仮面

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乱歩作品少年向け改作への道①黄金仮面

 光文社は江戸川乱歩の「少年探偵団」シリーズを独占し、莫大な利益を挙げた。他の出版社は、指を咥えて見ているしかなかった。  ポプラ社もそのうちのひとつだった。   戦後、偕成社(かいせいしや)の社員らが独立して設立した児童書専門の出版社のポプラ社は、何とか乱歩の作品を出したいと虎視眈々と狙っていた。  ポプラ社の編集部にいた秋山憲司(あきやまけんじ)はこう書き残している。 <江戸川乱歩の「怪人二十面相シリーズ」は、光文社ががっちり押さえ、昭和二十七年には八冊にもなって書店の棚を占有していた。とにかく売れ行きが他の児童書と全然違うのだから、ポプラ社の営業部から何とかならないかと、うるさく言われたが、こればかりはどうにもならない>         (『少年探偵王』 鮎川哲也・監修 2002年 光文社文庫)    そんな中、雑誌に乱歩の一番向け作品を児童向けにリライトした作品が連載された。  乱歩の通俗長編の中でも最高傑作とされる『黄金仮面』である。  原作は講談社で百万部の読者を誇った「キング」に、1930年(昭和五年)九月号から翌年十月号にかけて連載された。  その作品の児童向けリライトが、1951年(昭和二十六年)から1952年(昭和二十七年)にかけ、文京出版(ぶんきょうしゅっぱん)から刊行されていた雑誌「探偵王」に連載された。文京出版は昭和二十年代に児童向け雑誌を刊行していた出版社である。  改作者は、ミステリー専門誌「宝石」の元編集長、乱歩とも関係の深かった武田武彦(たけだたけひこ)。挿絵は高木清(たかぎきよし)。  目次を見ると、 <探偵活劇 黄金仮面 江戸川乱歩> と大きく紹介され、その後に <武田武彦文 高木清画> と続く。  秋山はハッキリ「第一回から評判がよかった」と書いている。  秋山は「探偵王」での連載が終わったら、武田武彦の児童向けリライト『黄金仮面』を本にしたいと考え、池袋駅西口、立教大学裏にあった乱歩の邸宅を訪ねた。   <敷地が三五〇坪あって庭が広く、庭の奥に書斎兼書庫にしている土蔵があった>  秋山の回想である。  玄関に出てきた乱歩は秋山の用件を聞くと、 「子どもの本は光文社に任せてあるから他社から出すわけにはいかない」 とあっさり断ってきた。  後の蜜月関係からは想像もつかない出会いだった。  その後も一週間に一度は乱歩邸を訪れていたが、乱歩の妻の隆子(たかこ)が出てくるだけで、乱歩は会おうともしなかった。  隆子からは、 「何度来てもだめなものはだめです」 と同じことを言われ、約一年が過ぎた。    
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