江戸川乱歩『人間豹』武田武彦・脚色『人間豹』ポプラ社版『人間豹』

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江戸川乱歩『人間豹』武田武彦・脚色『人間豹』ポプラ社版『人間豹』

↓「少年少女譚海」連載。武田武彦が脚色した『人間豹』1952年十二月号  神谷芳雄少年と姉の久美子。(昭和館提供)ac6a0f85-cf56-427b-9270-ee243d48b7a4 それでは登場人物について、 ①江戸川乱歩の原作小説『人間豹』 ②武田武彦の脚色した連載小説『人間豹』 ③氷川瓏がまとめたとされるポプラ社版『人間豹』 と比較していく。 【神谷芳雄】 (江戸川乱歩の原作)  大学を出たばかりの商事会社の社員。父親が重役のため、仕事らしい仕事もせず遊び歩いている高級遊民。 (武田武彦・脚色の連載小説)  銀座のキャバレー「黒百合」の少年ボーイ。少年探偵団の団員。 (ポプラ社『人間豹』)  銀座の喫茶店「黒百合」の少年ボーイ。間違いなく「キャバレー」が児童書の倫理規定に抵触するか何かで喫茶店という設定にしている。ホステスが客の相手をしていたり、全く喫茶店らしくない。 【第一の被害者】 (江戸川乱歩の原作)  弘子。カフェ・アフロディテのウェートレス。 (武田武彦・脚色の連載小説)  ひろ子。花売り娘。 (ポプラ社『人間豹』)  ひろ子。花売り娘 【第二の被害者】 (江戸川乱歩の原作)  レビュー団の女王と讃えられる歌姫、江川蘭子。舞台で「花売り娘の唄」を歌っている最中に人間豹に襲われる。 (武田武彦・脚色の連載小説)  江川ハルミ。人気少女歌手。モデルは当時、「テネシーワルツ」を大ヒットさせた江利チエミ。ハルミが「テネシーワルツ」を舞台で歌っているときに人間豹に襲われる。 (ポプラ社『人間豹』)  江川ハルミ。人気少女歌手。ハルミが「テネシーワルツ」を舞台で歌っているときに人間豹に襲われる。 【神谷芳雄の姉・久美子】 (江戸川乱歩の原作)  登場せず。 (武田武彦・脚色の連載小説)  神谷芳雄が住むアパートに同居している。帰宅した芳雄と話をしている最中に人間豹が現れるが、隣の大学生に銃で狙い撃ちされて逃走する。  該当する原作のシーンでは、芳雄の自宅に離れの座敷があったり、女中が出てくるので裕福だと分かる。突然、人間豹が出現し、ひとりでいる神谷芳雄を脅して立ち去る。 (ポプラ社『人間豹』)  神谷芳雄が住むアパートに同居している。帰宅した芳雄と話をしている最中に人間豹が現れるが、隣の大学生に銃で狙い撃ちされて逃走する。 【理髪店の五郎君】 (江戸川乱歩の原作)  登場せず。 (武田武彦・脚色の連載小説)  浅草の国際劇場の脇にある「サッパリ軒」という床屋にいる元気のよい中学生。柔道初段。警官から人間豹の似顔絵を見せられ、夜更けにサッパリ軒自慢のブルドッグを連れて浅草公園に人間豹を探しに行く。  該当する原作のシーンでは、千束町で豪傑床屋と呼ばれる大山理髪店の主人が登場。夜更けに飼っている土佐犬を連れて浅草公園に散歩に行き、人間豹に遭遇する。 (ポプラ社『人間豹』)  浅草のK劇場の脇にある「サッパリ軒」という床屋にいる元気のよい中学生。柔道初段。警官から人間豹の似顔絵を見せられ、夜更けにサッパリ軒自慢のブルドッグを連れて浅草公園に人間豹を探しに行く。    名張市立図書館刊行『江戸川乱歩執筆年譜』はポプラ社版『人間豹』について主張する。 <代作(氷川瓏)。昭和9・10年の同題作品を少年向けに書き替え>  中川右介は主張している。   <江戸川乱歩が武田武彦のリライトを気に入っていなかったため、新たに氷川瓏が起用されてリライトした>  それならなぜポプラ社版『人間豹』に、原作に影も形も登場しない芳雄の姉、久美子やらブルドッグを連れた柔道初段の五郎君など武田武彦の連載小説『人間豹』のオリジナルキャラクターが続々登場するのか?  そもそも警官が床屋に来て人間豹の似顔絵を見せられるシーン自体、原作にはない。武田武彦が脚色した『人間豹』のオリジナルシーンなのである。  原作では「カフェ・アフロディテ」とカタカナになっている店名が、なぜ武田武彦の連載小説もポプラ社版『人間豹』も「黒百合」となっているのか?   そればかりではない。  武田武彦が脚色した『人間豹』の第一回。  人間豹が「黒百合」に出現後、神谷芳雄は怯えたひろ子を気遣って。新橋の駅まで送ろうと言って一緒に外に出る。  原作にはこんなシーンはない。神谷はひとりで店を出て人間豹を追跡するのである。  ところがこの武田武彦のオリジナルシーンが、そっくりポプラ社版『人間豹』に登場する。  まだある。  神谷少年が江川ハルミの自宅でテニスをしようとする武田武彦のオリジナルシーンまで、そっくりそのままポプラ社版『人間豹』に登場する。  文章やセリフも、明らかに武田武彦の連載小説を参考にしている。独白を多用していることがその一例である。  武田武彦の脚色した連載小説『人間豹』を読んでから、ポプラ社版『人間豹』を読めば、誰もがリライトしたのは武田武彦で連載小説との異同は、単行本化にあたって書き直したものと思うだろう。  だが単行本をまとめたのが、連載小説『人間豹』を執筆した武田武彦ではなく、氷川瓏であることは間違いない。  氷川瓏が、武田武彦のリライトにところどころ手を加えてまとめたのである。  「武田武彦 構成・脚色・文」「氷川瓏 潤色」とクレジットするのが適切かと思う。下記を私の最終的な主張としたい。 ポプラ社版『人間豹』  「少年少女譚海」に1952年(昭和二十七年)九月号より1953年(昭和二十八年)八月号まで連載された『人間豹』(原作・江戸川乱歩 脚色・武田武彦 画・成瀬一富)を直接の原作として氷川瓏が単行本に再編集。  乱歩の作品を大胆に変更した設定やストーリー、文章などは、ほぼ武田武彦の連載小説と変わらず。         
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