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はじめに 倉橋敦司
江戸川乱歩について、今さら説明するのも時間の無駄かと思うが、福音館より1964年に刊行された『日本人名小事典』の項目を紹介する。
【江戸川乱歩】
1894~1965 日本の推理小説作家。三重県の出身。本名、平井太郎。早大政経学部卒。1923年の『二銭銅貨』をはじめ、『一枚の切符』『心理試験』『屋根裏の散歩者』によって推理小説の新たな分野を開拓し、異常な心理や情景を描いて人気を博した。
(その他の代表作)蜘蛛男、陰獣、幻影城
~(1964 福音館)より~
このエッセーの読者のなかには、ポプラ社から刊行されていた「少年探偵 江戸川乱歩全集」全四十六巻に、懐かしい思いを抱く人も少なくない筈だ。
日本のミステリー小説の開拓者であり、日本を代表するミステリー作家、江戸川乱歩の大ヒット作「少年探偵団」シリーズ二十六巻、 さらに本来一般向けに書かれた作品の児童向けリライト二十巻、全四十六巻からからなる。
ただし一般向け作品の児童向けリライトは、江戸川乱歩ではなく、別の改作者の手になるものである。
三重県名張市の名張市立図書館が刊行した江戸川乱歩リフアレンスブック2『江戸川乱歩執筆年譜』(監修・平井隆太郎 中島河太郎 1998年 名張図書館)では、各作品ごとに改作者の名前を紹介している。
なおリファレンスブックは全三巻からなり、乱歩の生まれ故郷である三重県名張市の名張市立図書館が刊行した乱歩ファンや研究家、必読の資料である。
この『江戸川乱歩執筆年譜』を開き、ポプラ社から刊行された児童向けリライト『人間豹』『大暗室』を見てみたい。
<『人間豹』 ポプラ社 (1954年11月)30日 代作(氷川瓏)
昭和9年、10年の同題作品を少年向けに書き替え>
<『大暗室』 日本名探偵文庫21 ポプラ社 (156年12月)30日
代作氷(氷川瓏。乱歩は「武田武彦」と記録)
昭和11・12・13年の同題作品を少年向けに書き替え>
氷川瓏は乱歩の弟子というべき人物で、弟の渡辺剣次は戦後十年ほど、乱歩の秘書というべき立場にあった。
氷川瓏が大部分の児童向けリライトを担当したことは間違いない。
だが『大暗室』『人間豹』の二作について述べると、資料を調べる限り、氷川瓏の単独リライトとするには非常に無理がある。
真にリライトを担当した人物を消し去ることは、ミステリー小説や児童書の歴史を語るとき、多くの問題点が出てくる。
このエッセーは、資料を駆使し、ポプラ社『大暗室』『人間豹』の児童向けリライトが誰の手になるものかを紐解くものである。
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