なぜ武田武彦は、ポプラ社『大暗室』『人間豹』の原案であることを否定したのか?

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なぜ武田武彦は、ポプラ社『大暗室』『人間豹』の原案であることを否定したのか?

 ポプラ社から刊行されていた乱歩作品の児童向けリライト『大暗室』『人間豹』が、武田武彦の雑誌連載を直接の原案として単行本にまとめたことは、今までの報告で明らかに出来たかと思う。  武田武彦の雑誌連載を元にしている以上、氷川瓏の単独リライトとする名張市立図書館の『江戸川乱歩執筆年譜』の記述は不適切であり、中川右介が、武田武彦以外に、ポプラ社の単行本となった氷川瓏による別のリライトがあったとする記述も事実に反する。  事実は、原作に登場しないキャラクターから登場人物の名前を替えるなど、全て武田武彦の雑誌連載のままである。  ただ次のような事実は残る。   『江戸川乱歩執筆年譜』の前書「探偵小説四十三年」で、編集の中相作氏は次のように書いた。 <ところが、武田武彦氏にお聞きしたところ、「大暗室」の代作者は故・氷川瓏氏であった旨のお答えをいただいた。武田さんが手がけられた刊本の代作は「黄金仮面」一作のみで、「ほかのポプラ社のものはすべて氷川君」という。乱歩の手書き目録に記録された代作社名も「大暗室」以外は武田さんの証言に符合するため、手書き目録に挙げられていないポプラ社出版作品の代作者もすべて氷川瓏と見做した>  編集に参加した人から非公式に伺った話では、最後に改めて確認したが、武田の答えは変わらなかったという。  もちろん「当事者が話したことは全て正しい」という論理は承服しかねるが、武田武彦が自分の関与を全面的に否定したのはたしかである。  なぜ武田は詳しい事情を説明しなかったのか?  武田が鬼籍に入った今、真相は謎のままである。  だが見当がつかないわけではない。  次の頁からは私の推測を述べる。だが間接的な証拠はあり、自信を持っている。
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