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(8)
有村博士と大曾根は、手をとりあって、甲板にかけあがってみました。地獄のようなくらやみの中に、うなりをあげる風と波が、小さな船体を、木の葉のように、ふきとばそうとしていました。はげしいいなづまが、きらめいたときです。観測船「みやこ丸」は、運わるく暗礁に乗りあげ、船腹に大きな穴があき、みるみるうちに沈みかけました。
(9)
「うわっ、先生!」
「大曾根君、フィルムを頼む!」
ふたりが、さけびあったときには、もうふたりのからだは、まっくらな海面に、なげだされていました。クジラのような、大きな波が、いくたびとなく、ふたりのからだを海底へ引きずりこもうとしました。
そのときです、頭の上から「ここだっ、ここだ!」とさけぶ声がしました。
(10)
おぼれかけたふたりを、こうしてボートの上に救いあげたのが、みやこ丸の船員三国だったのです。もちろんみやこ丸は、もう者のような船員たちのわめく声といっしょに、沈んでしまいました。しかし、こんな大海のまん中で、ボートにすくわれたといってもたいへんです。
(11)
死にもの狂いの戦いは、なおもつづきました。三人はひと晩じゅう荒れ狂う烈風とどとうに、もまれながら、どこへともなく流されていきました。
(12)
あくる日、あらしがおさまると、こんどは焼けつくような太陽のもとに、はげしい飢えと戦わねばなりませんでした。からだの弱い有村博士は、まっさきに熱病になやまされました。
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