第二話「小学六年生」(1956年五月号)

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②三階だての建物の下は、もちろん石畳です。おちたらさいご京子のからだは、カエルのようにつぶされてしまうでしょう。かならず大曾根のやつは、しらべにきた警官に「ぼくがいけないといっていたのにお嬢さんは、またローラースケートをやって遊んでいたのですね。きっと足をふみはずしておちたんでしょう」と、うそをつくにきまっています。 ③弾丸のように三階からころげおちながら、とっさに京子の頭にきらめいたのは、このことです。しかし、もうそのときは、京子のからだは石畳の地面へおちていたはずです。 ④ところが、金アミから下をのぞいていた大曾根の顔が、さっとかわりました。 「しまった‼ この下はプールだ!」  さけぶや大曾根は、ぱっと昇降口のドアへ、かけこみました。 ⑤三階だての東も西も北もー石畳になっていましたが、この南かわだけは、実験用のプールが、満々と水をたたえていたのです。京子は、このプールへ、ざんぶところげおちました。 ④「なにをあわてるんだ。京子はおよげないんだぞ。あのプールへおちたら、もういのちはないんだぞ。プールのふかさは、十メートルもあるんだからな……」  大曾根は、階段をかけおりながら、自分のむねに、こういって聞かせました。ーたしかに京子は、およげないのです。プールへおちても、そのままブクブクと沈んでしまうにちがいありません。
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