第二話「小学六年生」(1956年五月号)

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「小学六年生」(1956年五月号)より資料引用45fdf87e-9993-405f-9a9d-66bc57bb1453                              (資料引用) ⑦やっと安心した大曾根は、こんどはゆっくり、ポケットからたばこをとりだして火をつけると、のっそりと裏口から出ていきました。 「もう死んだにちがいあるまい」  大曾根は、たばこをくわえたままプールのそばへ近づいていきました。そして、ゆっくりプールの中をのぞいてみました。しかし、そこには、京子のすがたはみえませんでした。 ⑧「へんだなあ…… 底へしずんでしまったのかな」  大曾根は首をかしげていましたが、きゅうに 「小島くーん、小島くーん」 とおくへむかって、さけびました。書生がわりに有村研究所でつかっている、小島という高校生が、さっきへやにのこっていたのを、大曾根はみていたからです。小島少年をよんで、プールの水をほしあげようと思ったのです。 ⑨ところが、どこからも小島君のへんじはありません。しかたなしに大曾根は、じぶんでプールの水をあけることにしました。やがて青黒いプールの水が、ぐんぐん減りはじめました。プールのはしで、底をのぞいていた大曾根の顔が、みるみる青くかわりました。からっぽになったプールの底に、残っていたのは京子のはいていたスケートぐつだけでした。 ⑩京子の死体が、プールの底から浮きあがってくるとばかり思っていた大曾根は、まるでえたいの知れない魔術にかけられたようにうごくこともできませんでした。 ⑪そのときです。どこからか 「ふっふっ」 ときみょうなわらい声が、きこえてきました。ギョッとしてふりむくと、そこにはみしらない黒めがねの男が、ニヤニヤわらってたっていました。
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