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↓「小学六年生」(1956年五月号)より資料引用
⑫「きみは、だれだっ!」
大曽根は黒めがねの男をにらみつけました。するとその男は、しずかにかけている黒めがねをはずし、
「大曽根君、しばらくだね」
とニッコリわらいました。
⑬「あっ、きさまはー?」
「そうだよ。あのとき、きみに海になげこまれた三国だよ」
「うーむ。生きていたのか」
「ざんねんだったね。ところで大曽根君。君はそこで何をさがしているんだね」
「よけいなお世話だ」
「君のさがしているのは、京子ちゃんじゃないのかね……」
三国はニヤニヤわらいながら、大曽根の顔をのぞくこみました。
⑭「うーむ。さては、きさまが、あの京子を助けたのか……?」
「かわいそうだからね。小林にたのんで、近くの津久井病院につれていかせたから安心したまえ」
「えっ、小林だって---?」
「きみのところの小島君さ。あの少年は、ぼくの部下なんだぜ」
「な、なんだって、いったいきさまは……?」
「どこのだれかって聞きたいのだろう。ハッハハ」
⑮「わらっていたんじゃ、わからねえ。おまえさんは、警察の手先なのかね……?」
「ぼくは明智小五郎だよ」
「えっ、明智だってー?すると、あの有名な私立探偵は、おまえさんかい。しかし、ことわっておくがね、おれはおまえさんを海になげこんだが、京子をプールへなげこんだおぼえはないぜ」
大曽根はニヤリとわらいました。
⑯「さあ、どうかな。そのことは京子ちゃんに聞けば、すぐわかることだ。そりより大曽根君、きみはきのう銀行から有村さんのダイヤを持ち出したね」
「あのダイヤなら、博士の書斎においてあるよ。ほしかったら、いつでもみせてやるぜ。こっちへきたまえ」
大曽根は、明智のさきに立って、どんどん家の中へはいっていきました。
⑰大曽根は、二階の有村博士の書斎へ、明智を案内しました。へやの中は、みょうにうすぐらく、壁という壁は、みな本だなでかくされ、ふるいテーブルといすがひとくみおいてあるだけです。おまけに、たったひとつある窓には、ふとい鉄格子がはめてありました。
「これならどろぼうの用心にいいね」
明智はわらいました。
18「たいせつな書類がおいてあるからね。いま宝石ばこのカギをもってくるからすこし待ってくれ」
大曽根は、ニヤリとわらうと、明智をおいて、書斎から出ていきました。
「おやー?」
明智が、はっとしたときには、もう大曽根は、外の廊下に出て、勢いよくドアをしめていました。
ガチッ……と、カギをかける音が、ぶきみに聞えました。
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