花影

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花影

静江(シズヱ)サンとはその後、どう? 別段変わらん。 しらばっくれちゃって、ほんと呆れる そう言うお前こそ、相変わらずダナ 何を仰っておられるのか、良うわかりまへん 花影は、そう言う素知らぬフリをして、私を欺こうとしている。そんな事はお見通しだ。 なぁ、いいじゃないか?イコウ。 何処へ?…なんで奥さんいる身で私なんか好きになった? 何を言う?オマエが一番だ。 まんざらでもなさげに、花影は私の袖を掴み、私を奥の座敷牢に誘う。 奥で楽しもうとでも言うのか、しかし… 私は躊躇った。 好きなのは、ウソ? その言葉に私は逆らえずにそのまま、なだれ込むように、奥に入り込み、そして、花影を抱き締めほぐした。 身悶える(みもだえる)花影の真っ新な乳白色の肌から、漏れる吐息に私は我を失う。 嗚呼、また奈落の底に堕ちるんだ、わしら… しかし、花影も私もそのしている行為に背徳感もなく、まるで当然の如く、マグわり合って、そして、腰が砕けるまで、我々は、色濃く、溶ける迄、交わった。 私の(カルマ)や、彼女の業も、なんら我らには意味を持たない。 生きていたい、そして、我々はいつまでも性交を止めなかった。精液と女体から湧き出す潮やら、白濁痕は私達が、正論なんかより、生きてていいと許してくれている様だった。 それが仮に犯罪だとしてもーだ。罪に裁かれ様とも、警察に処分され様とも、我々は悪びれず、静江でさえも、終わればまた、素晴らしい日々が始まる。そんな、緩やかな死しか、私は望んでいなかった。 義務や体裁(ていさい)、何もかも、かなぐり捨て、僕らはツヨク、つおく……潰えるまで、激しく求め合った。 精液のツンとした匂い、そして、花影の、椿の華の蜜の様に溢れ(あふれ)零れる(こぼれる)汗の甘い(あまい)匂い(ニヲイ)その香りが私を潤した(うるおした) そうやって、生きていくのだろう。僕は、静江を忘れなければならない。 自分の一切合切(いっさいがっさい)の罪を全て精算して、また花影の廻廊(かいろう)に、奇しくも、赴き(おもむき)続ける。 私の夢を、破壊した人間は全て粉々(こなごな)に打ち砕く。 自分の邪魔をするものは、容赦なくーだ。 そんな私の乏められた(とぼしめられた)自尊心が、私を奈落の底に突き落とし、堕落させたのだ。 逝く末は分かりきっていた。 闇より何処(いずこ)依り、這い出れば、其処は現世(うつしよ) 滅すれば、いずる神ありけり、その名、忌み名、酒と女に、無縁な、同位体。オンナをこの世界から、排斥せんが為。 背徳(ハイトク)耽美(タンビ)、辱め、嵌めれば、見透かされる。 胸の内。 その宮仕え(みやづかえ)の女、妖艶。 スラリと延びた帯刀、什字を斬る その盤石読めぬ。 先見の妙。 耽美也けり。 唯一、絶対神。 色即是空だと思い詰めれば、鈍る。 そのカラの器に、鮮やかな色彩を色濃く散りばめる。 ボトボトと、次々に、色を継ぎ足し、迷彩性より、より確かに、極まる、有終の美。 神罰への傾倒。 帯刀はスラリと間延びした空を引き裂いた。 裂帛(れっぱく)*1であった。 調和とは対極を成す。 隙間に息吹を込め、居場所を造り出す妙義の構え。 安寧(アンネイ)なる居場所求めて。 義賊の十字傷。 亜空間を斬る。 ヒトである意味はそもそもの初めから無かった事になる。 皮肉にも程があるだろう? しかし、其れに対する答えに応える者は誰一人見当たらず、構わずに彼は刀を携える。 其れは、武者震いがしたものであった。 佩刀禁止令は既に、出回って居たにも関わらず、武士道の精神は俄然、根強いからである。 しかし、そんな事はしなくてもイイと一笑に伏せられる。 答えなどそもそも依、無いに決まっている。 その漢は、ばったりなりを顰め、姿を見せなくなったそうである。 自分の信心が、何処にも無いことを知るのだった。 近代思想に気付けば、時代は様変わり、かつての栄光は潰えていた。 漢が男を好きになり、女がオンナを愛する 枠組みが組み解かれたのである。 お前はするな、と釘を刺されている。 其れは漢が男を蝕む事は禁忌だからではなく、本能が拒絶して居たからだ。 自己陶酔に尽きた。 同性同士と言えど、性交程、気色の悪いモノは無かった。 また、そう云う、同性愛系統の創作物に手を染める事も、読む事も無かったと、彼は、無縁だと、云うに留めた。 彼には男友達は1人として居なかった。 何故なら、彼にはお相手が居たからである。 自慰ならぬ、字慰であった。 禁忌に触れぬ神に祟りなし。 1帛(きぬ)を引き裂く音の様に、声が鋭く、激しい様。
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