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花影
*
静江サンとはその後、どう?
別段変わらん。
しらばっくれちゃって、ほんと呆れる
そう言うお前こそ、相変わらずダナ
何を仰っておられるのか、良うわかりまへん
花影は、そう言う素知らぬフリをして、私を欺こうとしている。そんな事はお見通しだ。
なぁ、いいじゃないか?イコウ。
何処へ?…なんで奥さんいる身で私なんか好きになった?
何を言う?オマエが一番だ。
まんざらでもなさげに、花影は私の袖を掴み、私を奥の座敷牢に誘う。
奥で楽しもうとでも言うのか、しかし…
私は躊躇った。
好きなのは、ウソ?
その言葉に私は逆らえずにそのまま、なだれ込むように、奥に入り込み、そして、花影を抱き締めほぐした。
身悶える花影の真っ新な乳白色の肌から、漏れる吐息に私は我を失う。
嗚呼、また奈落の底に堕ちるんだ、わしら…
しかし、花影も私もそのしている行為に背徳感もなく、まるで当然の如く、マグわり合って、そして、腰が砕けるまで、我々は、色濃く、溶ける迄、交わった。
私の業や、彼女の業も、なんら我らには意味を持たない。
生きていたい、そして、我々はいつまでも性交を止めなかった。精液と女体から湧き出す潮やら、白濁痕は私達が、正論なんかより、生きてていいと許してくれている様だった。
それが仮に犯罪だとしてもーだ。罪に裁かれ様とも、警察に処分され様とも、我々は悪びれず、静江でさえも、終わればまた、素晴らしい日々が始まる。そんな、緩やかな死しか、私は望んでいなかった。
義務や体裁、何もかも、かなぐり捨て、僕らはツヨク、つおく……潰えるまで、激しく求め合った。
精液のツンとした匂い、そして、花影の、椿の華の蜜の様に溢れ零れる汗の甘い匂いその香りが私を潤した
そうやって、生きていくのだろう。僕は、静江を忘れなければならない。
自分の一切合切の罪を全て精算して、また花影の廻廊に、奇しくも、赴き続ける。
私の夢を、破壊した人間は全て粉々に打ち砕く。
自分の邪魔をするものは、容赦なくーだ。
そんな私の乏められた自尊心が、私を奈落の底に突き落とし、堕落させたのだ。
逝く末は分かりきっていた。
闇より何処依り、這い出れば、其処は現世
滅すれば、いずる神ありけり、その名、忌み名、酒と女に、無縁な、同位体。オンナをこの世界から、排斥せんが為。
背徳の耽美、辱め、嵌めれば、見透かされる。
胸の内。
その宮仕えの女、妖艶。
スラリと延びた帯刀、什字を斬る
その盤石読めぬ。
先見の妙。
耽美也けり。
唯一、絶対神。
色即是空だと思い詰めれば、鈍る。
そのカラの器に、鮮やかな色彩を色濃く散りばめる。
ボトボトと、次々に、色を継ぎ足し、迷彩性より、より確かに、極まる、有終の美。
神罰への傾倒。
帯刀はスラリと間延びした空を引き裂いた。
裂帛*1であった。
調和とは対極を成す。
隙間に息吹を込め、居場所を造り出す妙義の構え。
安寧なる居場所求めて。
義賊の十字傷。
亜空間を斬る。
ヒトである意味はそもそもの初めから無かった事になる。
皮肉にも程があるだろう?
しかし、其れに対する答えに応える者は誰一人見当たらず、構わずに彼は刀を携える。
其れは、武者震いがしたものであった。
佩刀禁止令は既に、出回って居たにも関わらず、武士道の精神は俄然、根強いからである。
しかし、そんな事はしなくてもイイと一笑に伏せられる。
答えなどそもそも依、無いに決まっている。
その漢は、ばったりなりを顰め、姿を見せなくなったそうである。
自分の信心が、何処にも無いことを知るのだった。
近代思想に気付けば、時代は様変わり、かつての栄光は潰えていた。
漢が男を好きになり、女がオンナを愛する
枠組みが組み解かれたのである。
お前はするな、と釘を刺されている。
其れは漢が男を蝕む事は禁忌だからではなく、本能が拒絶して居たからだ。
自己陶酔に尽きた。
同性同士と言えど、性交程、気色の悪いモノは無かった。
また、そう云う、同性愛系統の創作物に手を染める事も、読む事も無かったと、彼は、無縁だと、云うに留めた。
彼には男友達は1人として居なかった。
何故なら、彼にはお相手が居たからである。
自慰ならぬ、字慰であった。
禁忌に触れぬ神に祟りなし。
1帛(きぬ)を引き裂く音の様に、声が鋭く、激しい様。
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