影憑きの青年

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 怖くないのか、という至極真っ当な問いに、言われて初めて気がついた、というふうにその子どもはキョトンとした表情を見せた。けれど、それもすぐに破顔する。 「怖くないよ。強いからね。ぼく」  至極あっさりと告げる。少なくともおにーさんに負ける気はしないな、とも。  確かに、自分には魔法も魔術も扱えないし、戦闘訓練も受けたことがない。直近の記憶を喰われていても、なぜかそれは断言できた。 「困ったね。善良な皇国の民なら、ここでぼくはおにーさんを衛士に引き渡さないといけない」  影憑きは、その息の根を止める以外にももうひとつ、祓うことも可能であるとされる。けれど影祓いを行えるのは皇国の御子、または巫女に類する力を持つもののみ。おいそれと会うことの出来る相手ではない。  軽い声音とは裏腹に、自分を見つめる眼光は研ぎ澄まされたナイフのように鋭い。その不均衡さに背筋へ冷たいものが走る。  だが、その剣呑さも瞬きの合間にきれいに拭い去られ、代わりにどこかいたずらめいた笑みを見せる。 「大丈夫だよ。そんなことしないから。一応ぼく、おにーさんを助けるために出てきたわけだしさ。自分で助けて恩赦目当てに衛士につきだす、なんてやらないよ」  皇国にとって善良ではないけど、ぼくは人がいいからね。そんなことをうそぶいた。くるくるとよく表情が変わるテンポの速さに、少し目が回る。 「ただ、おにーさんどうするの? これから」 「……どうする、なんて」
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