かなしき君に約束を

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かなしき君に約束を

 どこか大仰な仕草で、ニシェはこちらへ背を向ける。思わず、その手を取った。  そのまま、消えてしまいそうに見えた。 「これから、どうするんだ?」 「……さぁね。決めてないよ」  やりたいことは、もう出来なくなってしまったし。彼はトモリの腕を振り払うこともなく、ただ寄る辺なく海を見ている。 「それでもまだ、ぼくに死は見えないから。どこかで生きてはいくよ」  人魚に自死の観念は存在しない。行けるところなどもはやどこにもないが、それでも自身の終わりが見えるその時まで、命ひとつだけをもって当て所なく彷徨うことになる。 「あの海から逃げ出した、その時にさ。ぼくの居場所はどこにもなくなったんだよ」  それも、覚悟の上だった。だから、後悔はない。  トモリがその腕を引く。こちらを振り向かせた。 「それなら、私が作る」 「……?」 「きみが、帰ってこられる場所を。きみと、彼女が生かしてくれた私の命全部を使って、必ず」  静寂の中、波の音だけが響いていた。ニシェはゆっくりと、トモリの手から抜け出した。  見せた笑みは、どこか呆れたような、慈しむような、暖かなもの。 「ほんとに不思議な人間だね、トモリはさ」  夢物語。絵空事。そんなふうに思えるのは仕方がない。けれど、約束を違えるように見えないのが本当に不思議だと。  応えるように、トモリは小指を差し出した。ニシェはそれを見て首をかしげる。そこで、彼は人の仕草や習慣を知らないことを思い出す。 「きみたちが額を合わせるそれと一緒だよ」  見様見真似で、ニシェが同じように手を同じ形にする。そっと小指を絡めた。人の行う「約束」の形。
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