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おかやん②
一面の白が収まると、今度は夕焼けの赤が目に飛び込んできた。その赤に溶け込むようにして、だけども妙に薄気味悪いあのオレンジの三日月が浮かんでいる。
……戻ってきた?
でもスタート地点じゃない。
今目の前に広がっている遊園地は全体的に錆びて鈍色の赤を放っており、虫の声すら聴こえないほど閑散としている。
そんな中で、
「なんで観覧車だけ動いてるんだ……?」
赤、青、黄色、ピンク、とかつてはカラフルに描かれていたゴンドラは、今じゃ茶色い涙を流していた。かろうじで色が判別出来るかどうか分からないくらいのそれに、僕は近付いて行く。
観覧車の前は枯れ草が所狭しと僕の背丈くらいまで伸びていた。
その中央に階段がある。
階段の下に古ぼけた自販機。その足下に、昭和四十五年と刻印された百円玉が二枚落ちていた。
階段に足を乗せればギシリと鉄が鳴いた。
次の段は左端が大きく腐食して穴が空いていた。
僕はゆっくりと慎重にその段を飛ばす。
ガクンと鉄筋の階段がかしいだ。
ペンキの剥げたの手すりをグッと掴んで耐える。
頭の上にあるテントのアーチが破れて垂れ下がって、まるで僕を嘲笑っているようだった。
歓迎ゲートを一足飛びに越えた。左右に大きく揺れる階段。今ほど、この小柄な体格に感謝したことはない。僕がもう少し大きかったら、とてもこの錆切った階段を上がり切ることは出来なかっただろう。
階段は、僕の背後で轟音を立てて崩れ果てた。
ゴンドラの前に辿り着いた時、どこからかリズミカルなアコーディオンの音楽が聴こえてきた。
ゴンドラは窓のガラスこそ完全に割れていたが、それ自体はどっしりとしていて揺らぐ様子は無かった。
→おかやん
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