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にゃんた②
「まだ見つけてないのか」
僕のすぐ隣で、低い声がした。
振り向くと、アコーディオンを抱えたクラウンが僕を凝視している。僕は思わず腰を抜かした。
──さっきまで誰もいなかったはずなのに。
"パチン"
辺りに軽い音が響く。
見ると、クラウンが胸の前で両手をパチンと合わせている。持っていたアコーディオンは、いつの間にかなくなっていた。
クラウンはずっと僕を見つめている。しばらくすると、大きくて真っ赤な唇が、ゆっくりと動いた。
「深い闇の中にいるのなら、光を見つけることに集中しなければならない」
僕は目を見開いた。
──暗闇の声……僕に呼び掛けていた声と、全く一緒だ。
クラウンは、もう一歩、僕の方に近付いた。夕日のオレンジが、クラウンの顔を照らす。
右目に……涙のペイントがあった。
ハッとした。
涙があるのがピエロ、ないのがクラウン。
それでいくと、今僕の目の前に立っているのはピエロだった。よくよく考えると、クラウンのように奇妙な笑い声を上げてないし、どこか落ち着きがある。それは、遊園地にいるピエロとも、また違う雰囲気だった。
クラウンではないと分かり安心したものの、素性の分からない相手に、素直に従ってよいものか正直悩んだ。
──もう裏切られるのは嫌だ。
自分のとるべき行動に答えが出せずにいると、ピエロは、すぐそばにあるゴンドラの扉を開けた。錆びた扉が小さく鳴く。扉が全開になったところで、ピエロの視線が、また僕とぶつかった。
──乗れ……ということだろうか?
ピエロは自らゴンドラに乗り込み、重たい腰をドスンと下ろした。ゴンドラの扉は開いたままだ。
〈行動する力がある時、そこにあるものはなにか。行動しない時、そこにあるものは何か〉
暗闇で聞こえたピエロの声が、僕の頭の中で木霊する。僕はその声に導かれるように、ゴンドラに足を踏み入れた。
→にゃんた
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