氷堂出雲(ひょうどういずも)②

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氷堂出雲(ひょうどういずも)②

中に足を踏み入れると嫌な音がした。 ミシミシ 「初めに言ったよね。孤独を愛するものは野獣か、そうでなければ神であるって。人は他の人と一緒にいないと生きれない。一人で生きれるのは動物と神だけだ。この世界に一人で居続けると獣になる。君には時間がない」 「不公平と公平って言う話は?」 「それは君への警告ではない。 君は今、怒っている。怒ることは簡単なことだ。しかし、正しい人に、正しい程度に、正しい時に、正しい目的、正しい方法で怒ること。それは簡単ではない」 「誰に怒ればいい?」 拳に力を入れたが、怒りをぶつける相手がいない。 「君だ」そう言うとピエロは消えた。 窓の外を見た。 観覧車に乗れば、この遊園地全体が見渡せると思っていた。麻衣のいるところ、敵がいるところ、誰かがいるところ、それがわかるかもしれないーそう思っていた。 今、窓の外を見るとゴンドラの下は黒いモヤが広がっていて何も見えなかった。白ければ霧だけど、黒ってなんだよ。 ガタガタガタ ゴンドラが激しく揺れた。外を見るとクラウンの顔。クラウンは、宙に浮いてゴンドラを揺らしている。僕は両手で手すりをしっかりつかんだ。 手すりの上部にヒビが見えた。 ミシミシミシ ゴキっとあっけない音がして手すりが外れた。両手で手すりを持ったまま床に倒れたが床はバラバラに砕けて、落下した。背中に激痛が走る。真下のゴンドラの屋根の上にぶつかり、弾き飛ばされた。 さらにドサッと地面に落下した。 生い茂った雑草や雑木がクッションになり助かった。 「妹を返して欲しければついてこい」そう叫ぶクラウンの後を追う。 武器の自動販売機があった。販売中のランプもついている。警棒、包丁、ピストル、ライフル、刀、すべてニ百円だった。 「よし、警棒だ。僕に人殺しなんてできない」 ズボンの右のポケットから、さっき観覧車のところで拾った百円硬貨を取り出して、コイン投入口に……入らない! 触った感じで気づくべきだった。大きい。いつもの百円硬貨より大きい。 百円の文字と昭和45年の文字は覚えている。 百円の文字、富士山と日本国の文字。 ひっくり返すと、昭和45年の文字。その上には、桜のマークにEXPO’70の文字。 おじいちゃんの家で見たことがある記念硬貨ってやつだ。自販機で使えない。奥歯を噛み締めた。 でも、ぶつければ武器になる。再びポケットに入れた。 →氷堂出雲(ひょうどういずも) https://estar.jp/users/359945980
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