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藤村砂希②
僕は血の沼に立ったまま、ゆっくりと沈んでいく。
しかし、血であるはずの水面は、真っ黒に見えた。
僕はスマホで検索した。
太陽の塔……その顔は4つあり、4番目の顔、地底の太陽は行方不明との事。
見上げると、クラウンと地底の太陽の顔が重なった。
その時、僕は“ドプン…”と漆黒の沼に沈んだ。
……ここは、最初に妹と来た闇の世界。
迂闊にも、一瞬妹と手を離してしまい、再び妹の手を握って脱出したが、連れて来た相手は、妹、麻衣ではなかった。
クラウンが健太として、その子が麻衣として、元の世界へ戻ると言っていた。
麻衣はまだ、ここにいる。
僕は大声で叫んだ。
「麻衣―」
「……お兄ちゃーん」
遠くから応答があった。
声のした方に向かって、闇の世界を歩いていく。
その先に風船が浮かんでいた。
麻衣が風船を掴んでいるのだろうか……何故か風船だけが見えて、麻衣は見えない。
「麻衣か?」
「お兄ちゃん……何処」
麻衣には僕が見えていない様だ。
「麻衣……その風船、どうしたんだ?」
「……クラウンに貰ったの」
「クラウンに?」
その時、僕は思い出した。
クラウンから、闇の中を覗けると言って貰ったチケット。
そこには、クラウンが子供たちに風船を渡しているイラストが描かれていた。
この風船は、餌だ。
子供を釣る為の。
そして今、麻衣は僕を釣る為の餌にされている。
僕はゆっくりと麻衣に話した。
「いいかい、落ち着いて聞いて、今、麻衣が掴んでいる風船を、ゆっくりと放すんだ」
「いやだよ、風船を離したら、お兄ちゃんは私を見つけられなくなる」
「大丈夫だ。麻衣の場所はわかる。いいかい、風船を離したら、動くんじゃないぞ」
「……わかった。早く、早く私を捕まえて」
麻衣の声が震えている。
「よし、じゃ、1、2の3で放すんだ」
「わかった」
「1…2の……3!」
風船は真っ直ぐ上へ登っていく。
僕は襲い掛かる様に麻衣を捕まえた。
それと同時に闇は消え、僕と麻衣は最初にいた遊園地に現れた。
……戻って……これた?
僕は麻衣を抱きしめた。
麻衣は恥ずかしそうに言った。
「お兄ちゃん……苦しいよ」
「良かった……本当に良かった」
心の底から笑いが込み上げてくる。
「……お兄ちゃん?」
「ウキョキョキョキョ」
→藤村砂希
https://estar.jp/users/637364402
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