惑星調査員

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建設作業員から、「惑星調査員」になりました。 前職の「建設作業員」の事務所からの紹介で、この星を調査することが仕事の「調査員」になりました。電力プラント建築に携わったおかげで、私に海上活動での適正があることが分かったので、その適正を活かした仕事につけたわけです。 世界中での海中生活も長くなり、それなりにこの生活環境には慣れていったものの、私たちの生活しているドームから、他のドームへの移動の不便さは相変わらず問題として挙げられていました。 「水中船」での移動網は徐々に発展してきてはいましたが、以前の地上での新幹線や、飛行機での移動に比べれば圧倒的に遅いのが現実です。地上で最速の移動方法であったリニアモーター機関での移動も、平坦な場所に「電気軌道」を作ることが出来るが故の移動方法が前提でした。そのため。海底に軌道を敷くにはあまりにも海は深く平らではないため頓挫。パイプでドームとドームを結ぶのもの圧倒的な長さが必要のため資源問題に早々に直面したため、計画段階でストップとなりました。 今の生活環境では、水中船、いうなれば「潜水艦」の移動が主となり、必要最低限の移動しか行わない生活が当たり前になっていました。 とはいうものの、それぞれのドームの中で「人類の存続のため」という名目のもと、科学技術は進歩を止めず、人口が少しづつ減り始めているグラフラインをたどっているため「何とかしなくては」と思い、行動している人がいるもの事実です。 そんな中で、環境の変化の少なかったといえる海中の探索は限界を迎えようとしていました。海底1万メートルまで人類は到達し、深海魚の図鑑は一気に埋まっていきましたが、まったく新しい発見といえるものはありませんでした。 とはいえ、新たな発見ではないですが、その昔海底に沈んだといわれていたアトランティス大陸が見つかったり、バミューダトライアングルの謎も解けるなど、海底にかかわる部分の謎といわれていた探求も一周し、人類史に新たなページが追加されていったのは記憶に新しいところです。 その結果、その遺跡群から過去のテクノロジーが復元され、新しい技術発展につながったのは、海底生活をしていく人類にとって、大きな助けになったことは間違いありません。 話を惑星調査員に戻しましょう。 調査を行うにあたり、海上での活動について重要だったのは、防護服の進化であるのは間違いありませんでした。最初の調査の頃、アポロ計画で月面着陸を目指していたころのかなり大がかりな防護服だったのですが、今では安全マスクで上半身の安全が、安全ベルトで下半身の安全が保たれるほどの技術に進歩しました。 おかげ様で、その安全マスクと、安全ベルトがあれば海上での活動は安心して進められるようになったのですが、調査結果については、中々思うように成果が出せませんでした。 なにせ、海面は上昇しましたが、空が落ちてきたわけではないので、どんなに今の海上を調査しても、「何も見つからない」わけです。おとぎ話のガリバーの島があったわけでも、ラピュタのような天空の城も見つかりませんでした。 「何もない」ということを調査し続けることになったのは悲しい事でしたが、新たな発見もありました。 それは、「宇宙が近くなった」ということです。そういうとちょっと語弊がありますが、過去は地上から100㎞の高さまであった大気の層がたったの10㎞になったということが調査の結果、判明しました。 ということは、昔の考え方で言えば、海面からジェット機が飛べる高さまで飛ぶことが出来れば、そこはもう大気圏の外、宇宙空間ということになります。その原因については理由はわかりません。しかし大気圏が10kmの高度で突破可能ということに、新たな可能性を見出し、かつ進んだ科学技術により、一気に宇宙進出が現実になりました。 やはりどんなに環境改善が進み、ドーム内の生活になれていったとはいえ、移動の制限がかかっている状態は、人類に大きなストレスを与えていたのでしょう。 なので、宇宙進出計画からの開発スピードは世界中を巻き込んで一気に進みました。 あれよあれよという間に軌道エレベーターが完成し(マイナスバベルの塔があったので、そこからタワーを増築するのはあっさり出来ましたね)、各国協力のもと、宇宙ステーションが完成。今まで苦労していた宇宙への玄関を手に入れることが出来ました。 その間、私が何をしていたかといえば、軌道エレベーター建築時の周囲環境の調査であったり、宇宙ステーションが作られるまでの環境調査をしていました。惑星調査員の調査のおかげで、変わってしまった大気圏の中でも安全に建築作業をすることが出来たわけです。 その功績から。私には新たな選択肢が与えられました。 「惑星調査」のために火星に行かないか?というものでした。 今回の宇宙進出については、もう一つ理由がありました。 アトランティス大陸が見つかったのは海底にすむしかなくなっていた人類にとって、大いに助けになった事は前述したとおり。その遺跡を調べたことによりいずれこの惑星が完全に水に覆われることが予測されている記録がありました。そうなってしまうと、この惑星でそれ以上の変化は起こらず、星の寿命とともに滅びるしかないだろう、と。そう予見したうえで、その大陸の人たちは他の星への移住を考えたそうです。その移住先に選ばれていたのは「火星」でした。 「テラフォーミング」 かつて、このまま人類が増えていった時に住む場所を求めて他の惑星を地球と同じ環境に変え、移住していく計画がありました。 海中に沈んだ環境で生活するようになり、人口が少しづつ減少していく中、他の星に移住するということも考えられず、現状の環境で必死に生きてきた私たちでした。 けれども、環境が変化した結果、海底開発が進み、アトランティス大陸発見といった新たな発見につながり、その発見から先住民を追いかける形で、火星に向かうことになろうとは、誰も想像していなかってでしょうね。 もしかしたら先に火星に向かったアトランティスの人たちは、この星の人たちが追いかけてくることは想定していたかもしれません。とはいえ、その時に備えて、アトランティスの人との連絡手段が残っていなかったのが、気になります。まぁ、海に沈むまで、人類が生存していない、もしくは海に沈んだ時点で私たちが滅んでしまうと想定していたかもしれませんけれども。 スペースシップの設計、開発が進み、ついに火星に出発する時が来ました。 私は、未知の環境である火星に行くためには、「惑星調査員」の力を借りずにはいられないだろう、という理由で。今回スペースシップの搭乗員に選ばれました。 大歓声で見送られる中、火星での仕事に大きな期待と同じくらい大きな不安を抱えて出発です。はてさて、どんな調査結果になるでしょうねぇ。 ということで、今度は職業が変わることなく、「惑星調査員」として、火星にて仕事開始です。
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