タイムマシーンという「報われ」

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「鈴鳴館、名門ですよね」  ちなみに補足しておくと、直井の初恋は高校時代で、同じクラスの角川夏生という昔グラビアアイドル、今は女優の人だ。高校時代からその初恋は引きずっていて、歌詞を見ると「これ角川さんのことなんだろうな」というのを感じる。当時から厄介行動を起こしているようだが、なんでか事案化されていない。その辺も聞いてみたかったんだよな。 「角川さんって元カノなんですか? それにしてはエピソードが少ないような気がします。あんまりいい思い出なさそう」 「うるせえなあ。知りたいこと大体わかってるじゃないか」 「はあ。なんか。不毛な恋ですね……思い入れがあればいるほど」 「はー? 初恋って大体不毛だろう」 「報われないんですか」 「君は報われたのか?」 「わからない……」 「なんでわからないんだよ」 「初恋してないからですかね」 「そうかあ……」 実際は。初恋と呼べるものがあるならキュアリビドーだとして、キュアリビドーにさっさと振られたいんだけど。どうやったら打ち砕かれるかわからない。 「直井さん麦茶とサイダー混ぜるの好きですよね。持っていきます」 「十年後も好きなのか?」 「十年後もあんまり変わってないと思います」  実のところ、2021年に出したCDで角川夏生に対する気持ちは方向転換する。というのも角川夏生が前年にカメラマンと結婚したからである。まあ離婚するんだけど。  麦茶を注ぎ、ジンジャーエールを注ぐ。ジンジャーエールの注ぎ口から黒い靄がなだれ込み、私を包んだ。
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