タイムマシーンという「報われ」

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「お疲れ様。これスタンプカード。今日は一回目ね。あと二回来るとしたら一年以内にお願い」  家に帰るまでの間じゅうスタンプカードをずっと握りさっきまでの光景を噛み締めていた。やったぜ。直井に近づいた。私は今までにない軽い足取りで帰路に就いた。夕食はハンバーグ。弁当屋のハンバーグは筋だらけだ。でもしあわせ。私しあわせ。  その夜は眠れなかった。オナニーしてセロトニンが出たとしてもタイムスリップで得たドパミンには勝てない。  次タイムスリップするならいつにしよう。どうせなら直井の人生が変わった瞬間に立ち会ってみたい。直井が直井であることを決めた日に。例えば直井が初めて風俗に行った日とか。例えば藤崎さんが直井に惚れたライブの日とか。一番、一番これだという日は、直井がお笑いコンテストに出た日。直井が高校三年生の受験に差し掛かるかどうかの日。その一日で直井はスベったりウケたりした。それから四年が経ち、直井は芸人を目指すようになる。次タイムスリップするなら、二十年前くらいがいいだろう。  しかしタイムスリップするなら今日ではない。昨日の今日で興奮して風呂に入るのを忘れてしまった。風呂に入ってない体たらくでタイムスリップしたくない。だけど今すぐにでもタイムスリップしたい。ああ。体育で高校の名物ダンス踊りたくない。和子ダンス踊りたくない。たまにやる気出してキレキレに踊ってみたりするけどガラスに反射した自分に絶望する。アイドルになれない。なれると思ってないけど、未来の可能性がふさがると機嫌悪くなる。必修科目を思いっきりダンスして、ダサいなんて、恥ずかしいなあと思う。
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