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雨音ちゃん
あまねちゃんは、あまねくんと結婚して、名前が雨音雨音になりました。
あまねちゃんは雨女でした。
あまねちゃんの行く先々で雨が降るので、友だちはあまねちゃんから離れていきました。
唯一、あまねちゃんのそばにいてくれたのは、あまねくんです。
新居は、あまねくんの提案で、雨の少ない地域にしました。
引っ越しの当日は、あまねくんとあまねちゃんの移動に合わせて雨が降り、降水確率0パーセントだった転入先も到着すると雨がポツポツと降ってきました。
その日から激しい雨が何日も降り続き、とうとう河川が氾濫してしまいました。
「私のせいかな?」
「あまねちゃんのせいじゃないよ」
いくら雨女でも川が氾濫するほどの雨を降らせる力はありません。
「そのうちやむから」
あまねくんのなぐさめに反し、川の水は住宅街に流れ込み、避難警告が出されました。
あまねちゃんは決心しました。
「ここを出よう」
「そうだね。避難した方がいいね」
「避難じゃない。この町を出るの」
「どうして?」
「きっと名前のせい」
「今までだってその名前でやってきたじゃないか」
「結婚してあまねあまねになってしまったから、雨女もひどくなったんだと思うの」
「だったらどこに行っても同じじゃないか」
「砂漠のある国に行こう」
あまねくんとあまねちゃんは、砂漠に行くことに決めました。
「砂漠でオアシスを作ってそこで暮らすのよ」
「きっと砂漠を旅する人にも喜ばれる」
「私が役に立つこともあるんだね」
砂漠に到着すると、早速、雨が降り始めました。
ラクダを引く人々が天に両手を広げていました。
あまねくんとあまねちゃんは目を合わせ微笑みました。
雨は降り続け、しばらくすると砂漠が洪水になりました。
あまねくんとあまねちゃんは必死で逃げました。
ある人が教えてくれました。
「砂漠の土は硬いから水を吸わないんだ。雨が降ったら水の逃げ場がなくなって洪水になってしまう」
自分たちのせいだと言えず、あまねくんとあまねちゃんは砂漠から離れました。
「離婚しよう」
あまねくんが言いました。
「あまねちゃんのせいじゃない。僕のせいだ。いや、僕たちが一緒になったせいだよ」
「結婚しなきゃよかったっていうの?」
「そうじゃない。結婚しちゃいけなかったんだ。僕たちが一緒にいれば、多くの人に迷惑をかける。別れよう」
あまねくんの意思はかたく、あまねちゃんが説得しても無駄でした。
あまねくんと離れてから、曇りの日が続きました。
あまねちゃんにとって雨の降らない日はうれしくもなんともありません。
あまねくんと同じ傘に入ることが何よりも幸せだったからです。
そんなとき、あまねちゃんの身体に異変が起きました。
あまねちゃんのお腹には赤ちゃんがいました。
生まれた子どもに、あまねちゃんは『ドライ』と名付けました。
あまねくんとあまねちゃん、そこにドライくんが加われば……。
その証拠に、ドライくんが生まれてから快晴が続いているのです。
あまねちゃんは、ドライくんを連れて、あまねくんを探しました。
あまねくんのお母さんは言いました。
「息子はもうこの世にはいません」
あまねちゃんは、泣き崩れました。
ドライくんは、泣き続けるあまねちゃんをニコニしながら見つめるだけです。
あまねちゃんは、何日も泣き続けました。
ドライくんが生まれて初めての雨が二人に降り注ぎました。
「あまねちゃんはママと同じ名前だね」
「そうね」
「これは、ママのお話なの?」
「どうかな?」
「でも僕の名前は太陽だよ」
「そうね」
二人は、傘を差し歩き出しました。
「ママ、天気雨ってなに? 幼稚園に行くと、みんな『また天気雨だ』って言うんだ」
「天気雨は太陽が出ているのに雨が降っていることよ」
「そんなの普通じゃん」
「そうね」
「雨と太陽はいつも一緒だよね」
「そうよ。ママと太陽くんは、離れちゃいけないの。ママが泣かないために太陽くんを産んだんだから」
「僕は、ママを泣かせないよ」
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