雨夜の笛

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一  木挽町五丁目、松平家の屋敷には時折、気味の悪いことが起きるという。  雨降り物静かなる夜、どこからともなく笛の調べが聞こえてくるというのである。  それは、屋敷の外から聞けば、内で吹いているように思われ、声の主を追って屋敷へ入ると、庭の方から聞こえてくるような気がし、勢い勇んで庭に出てみると、また家の中から聞こえてくるような……といった具合に、まったく出所をつかめさせないのであった。  夜更け、子の刻より朗々と響きだし、丑三つの頃を過ぎてやっと消える。笛の音は非常に麗しく、耳に心地よく響き、その正体さえ判明すれば、寝入り間際の心休めにちょうど良いのだが、何せ誰の仕業とも分からぬが故、家中からは恐れられ、女子どもは怯えて一睡もできない有様であった。  事態を重く見えた家長が、謎の正体暴かんと雇ったのが、園村重四郎という年若い浪人。屋敷に救う魔の正体を見出し、見事追い払ったならば礼一両に加え、屋敷の用心棒として雇う約束付き。立身出世を目指して江戸に来たは良いものの縁故の一つもなく仕官など夢のまた夢、明日食うものにも困っていた若侍には、世に二つとない美味い話であり、すぐに飛びついた。以来、松平の家の者は別家に引き下がり、重四郎ひとりがここに寝泊まりして、怪異を暴かんと頑張っている。そうして、三日ほどが過ぎた。
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