潜入報告書その②

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「こんばんは! ひーちゃんだよ」  年齢不詳の男は人懐っこい笑顔でこちらへ寄って来た。 「こんばんは。月が綺麗な夜ですね。私は203号室の西です」 「僕は301号室のジルベールと言います」 「ワシは四天王の一人、マンドラゴラのドラコじゃ!」 「よろしくね。ひーちゃんは夜だけど頑張って仕事してるよ!」  胡散臭いひーちゃんという男は何か紙の束を持っていた。もしやこやつもスパイで何かの調査をしているのだろうか。  ひーちゃんが吟遊詩人と王子に報告書を手渡す。なぜワシにはないのだ。腹がたつので魔力で報告書の文字を読んでやった。 『孤児院を作っています。 あなたも恵まれない子供達に救いの手を差し伸べませんか? 幸せの会真理教』  胡散臭い見た目からは分からなかったが、このひーちゃんという男、なかなかよい奴じゃな。 「だが、申し訳ない。ワシはすでに魔王様の四天王! どこかの組織に属するわけにはいかんのじゃ」 「それは残念。孤児院は動物がいっぱいだから、キミならすぐ入れるのに……」 「あなたはマンドラゴラに動じませんね」 「動物の友達はいっぱいいるから」 「動物というより植物では?」 「このドラコ殿はここの401号室の河童殿の友人で、頼まれて届けに来たのですが、どうやら不在のようです」  吟遊詩人が伝えると、ひーちゃんは笑顔で頷いた。 「同じ階だから、カッパ君が帰るまでオレが預かるよ! カッパ君とは顔見知りだからね」 「それはありがたい。よろしくお願いします」  西という吟遊詩人はあっさりとワシをひーちゃんに手渡した。
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