0人が本棚に入れています
本棚に追加
2.悩めるヒーロー
血圧が、高い。
プリントアウトした健康診断の結果を睨みつける。
下が九十、上が百四十をたたきだせば、立派な高血圧の仲間入りだというが、私の血圧はまさしくそれに迫りつつあった。
まずい、非常にまずい。
私は、ブリザーディーのリーダーだ。
他のカラフルな若手に比べれば、最前線で切った張ったのハードアクションをこなす場面は少ない。
実際、前回の灼灼シャーク戦にしても、ポージングと最後の一撃以外は、ほとんど仁王立ちで眺めていた。
それでも、その機会がまったくないわけではないし、そもそも怪人との戦闘はそれだけでもプレッシャーがかかる。
つまり、非常に血圧の上がりやすい仕事なのだ。
ヒーローたちはみな、何らかの誓いを立てることで、変身するパワーを手に入れる。
凍結戦隊も例外ではない。
名は体を表すとはよく言ったもので、我々の誓いは、戦隊名に近いところにあった。
ヒーローたるもの、冷静たれ、だ。
具体的にいえば、血圧が百五十を上回ってはいけないのだ。
「黒田さん、上が百三十八って……それ、本当にまずいですよ」
「こら、勝手に見るな。プライバシーの侵害だぞ」
「マイページで見れんのに、プリントアウトなんかしてるからですって。リーダー、そろそろ潮時なんじゃないっすか?」
深刻そうに顔をしかめてブルーこと紺野が言い、同調したレッドこと赤木がにやにやとする。
潮時とは本来、ちょうどよいタイミング、チャンスを意味する言葉だ。
現代よく耳にする使われ方が誤用なのだ。これだから今時の若者は。私は内心で憤る。
「リーダーってただでさえ緊張しいなんすから、いいとこで変身とけてパンイチとか、やめてくださいよ?」
おのれ赤木め、やめてくださいと言いながら、どうしてにやついているのだ。
完全に期待しているじゃないか。これが噂に聞く煽りというやつか。現代の闇、親父狩りの前兆か。
しかし、赤木の話を笑ってばかりはいられない。
やつの言うとおり、立てた誓いを破ればたちまち変身は解け、ヒーローとしての能力も翌日まで使えなくなってしまうのだから。
最初のコメントを投稿しよう!